楡 周平 (著)
そのクリックは、地獄への一本道。「無駄」の排除を続けた果てに、人間そのものが「無駄」になる……。ネットの進化がもたらすインパクトを、「ビジネスモデル小説」の第一人者が冷徹に見据える。
内容(「BOOK」データベースより)
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
1957(昭和32)年生まれ。作家。慶應義塾大学大学院修了。96年、米国系企業在職中に書いたデビュー作『Cの福音』がいきなりベストセラーになる。翌年より作家専業に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
私は勘違いしていたが、デジカメが出たから前のフィルム産業が衰退したのではなく、デジカメと通信が結びついて、ブログという環境ができたから、フィルム産業は淘汰されたのだ。ブログがなければ、保存するメディアがフィルムかデジタルかの違いだけで、結局人が目にするには昔からの紙にプリントするしかなかった。だったら今までの街角のデポは成り立ったわけだ。しかし撮った写真をプリントせずにそのままブログにあげる…となると、もう存在価値がない…。
世界一のコダックが世界で初めてデジタルカメラを世に出した。それによって自分の会社の首を絞めているとは思っていなかったのだろう。若者のカメラ離れではなく、撮ったフィルムを店に持って行って…という手間が嫌だったのだ。この辺りの仕組みをじっくり説明してあるので、それだけでも読む価値は大。
「企業が生き残ることと従業員が生き残ることは全く別物」というのもショック。コダックは時代に乗り遅れて会社が潰れた、富士フィルムはコダックの轍を踏まずちゃんと別分野での生き残りを準備していたから、大成功事例だ…と思っていたが、実際には何万もの社員をリストラし、当然ながら、フィルム産業にしがみついていた街角のデポもほとんど潰してしまった。名前は残っても全くダメなわけだ。
第2章では、アマゾンなどの新興ネット企業が既存の産業を「素早く動き破壊せよ」という方針でぶち壊す様子が描かれている。
第3章では、デジタル化がもたらした、便利さとその裏にある悲劇が本当に細かく事例付きで紹介されている。
第4章がもう読めば読む度悲劇。自分は何とか逃げ切れるかもしれないが、自分の娘や孫の時代にはどうなっているのだろう。これを見て自分は今後どう立ち振舞すれば良いのか。本当に考えさせられる本です。ネットのニュースが無料…の裏には、どんな矛盾が潜んでいるのか。今まで全く意識してなかった気づきを与えてくれます。「立ち読みは国を滅ぼす」
しかし評価で★一つの人が意外にいるのも面白い。
例えば、生産関係の利益率は30%前後と言うが、飲食は5%あればいい。
中古車は「不具合」があって当たり前。だけどそうはいえない。
他にも、心当たりあるかと思いますが、服を買うときに「それは似合いませんね」と言われたことはありますか?
無いですよね。
かと言って、薦めているスタッフさんが、似合っているかと思うかは別の話。
というのがこの本に書いてあります。
他にも、目から鱗って方が多いんじゃないかという情報の数々。
読んで損は無いんじゃないかなぁ。
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GoogleやFacebookという一企業に私たちのプライバシーが把握されることの危うさ、もはや生活に欠かせないネットインフラを一方的にコントロールされることへの警戒感など、日々感じる不安を網羅的に代弁している。
デジタル社会やネット社会の利便性や快適さの代償として自分たちが失うものは何だろうか。
ネット販売が普及して、商店街にある店は、ただのショールーム化しつつあります。
それ以外にも、ソーシャル・メディアと、ビッグ・データ、画像処理などの技術を組合わせると、非常に便利な、しかし、一方で、不安を感じてしまう社会が、実現しそうです。
Google社などが開発中の眼鏡型コンピュータをかけて街を歩くと、視界に入った人の顔を画像認識して、SNSの公開画像とマッチングを開始。一致した人物の名前をGoogleサーチして、その情報を眼鏡ディスプレイに表示。といったことが、簡単にできそうです。
友人が近くにいるのを教えてくれたり、見知らぬ人の情報を教えてくれたり。
また、SNSのコメントや、何を「いいね」と思ったか、などでも、個人の嗜好や思想が分析でき、自分の趣味に合った広告・お知らせを提供してくれる一方、他人には知られたくない部分まで、丸裸にされてしまいそうです。
危機的状況を切々と訴えている。
たとえば、2章“素早く動き、破壊せよ”によれば、
(move fast and break things ザッカーバーグの言葉)
95年から9年間で、amzon は売上高×5000倍の急成長をとげ、
その半面で、
05年から6年間で、店舗数を半減させた
アメリカ書店大手ボーダーズは、2011年に破産。
ひるがえって我が国では、
2000年から9年間で、6000軒の書店が閉店(27%減)
したという。
帯の紹介にあった“経済小説の第一人者”だけあって、
数字の裏付けを丁寧に示しながらの説明は、説得力があった。
この本に教わったこと
●アメリカの電子書籍・最新事情
●日本特有の書店流通の基礎知識
●なぜ日本の電子書籍はまだ値段が高いのかその理由
難点▲たしかに散漫で3Dプリンタ、雇用とか話がどんどん拡がる
しかし
第2章“素早く動き、破壊せよ”の部分は読み応えがあり
自分はこの2章にたくさんマーカーを引いた。
電子書籍大国アメリカに比べ、我が国・日本の書店が、なぜかろうじて踏ん張っているか。日本特有の取次・再販制度による防波堤の役割など、書店業界の基礎知識もあわせて丁寧に教えてくれた。
先導するアメリカでは、電子書籍デジタル革命により、自費出版マーケットが大きく変わり始めた業界の最新事情も、分かりやすく教わった。
56p Kindle ダイレクト・パブリッシング
66p “海賊版が野放し”なアップル
特にこのプラットファーマーの取り分を読んでいると、
イソップ寓話の“Lion's share”を連想してしまい
背筋が寒くなった。
2013年10月、東京三鷹でストーカー殺人事件がおきた。
Facebook に関しては、個人情報の取り扱いの怖さを再認識した。
著者は写真フィルム・メーカー大手コダックに長年勤めた後、経済小説家に転職した。カメラ業界のデジタル革命を目の当たりにした著者だからこそ、書店業界とデジタル化の功罪については、骨身に染みる話が読めた。2章3章は本当に読み応えがあった。
しかし、その一方では雇用は縮小、商店街はシャッター通りとなるなど、その弊害も決して小さくない。
ネット社会の未来に対する警鐘が中心の内容。
それに加え、多面的に現代社会をみて的確な現状把握と分析、未来予想がなされている。
利便性を追求すると、結局自らの首を絞める結果になるような話題も多い。
これらの話題には相応の説得力があり一気に読了した。
ネット関係で言うならば、GPSの位置情報や買い物履歴などの嗜好、購入した図書などから思考、もし経歴や勤務先なども晒していれば、顔認証でそれらも丸裸にされて、行政機関に提供されるおそれがありますよ、ということ。
他は、技術革新によって自動化が進み、人の力=労働力が不要になり、お先真っ暗だとひたすら説明する。
確かにそのとおりだが、本当に労働力としての人は不要になるのか?
判断だけを求められるエリートビジネスマンと、貧困層だけで社会は成り立つのか?
例えば、法廷や悩み相談、占い、販売、マッサージ屋、飲食店、プロスポーツ、演劇、何でも良いがロボットが人に取って代われない仕事はいくらでもある。
そこに労働人口の全てが吸収できるのかを問わねば、工場のラインが自動化されたので、自動運転で運転手が不要になって、人が余るといった点ばかりで書かれても、抽象論過ぎて説得力がない。
同様に、スーパーがネットショップに取って代わり、買い物難民がおきるとか、本屋がアマゾンに食われるというのは、以前から懸念されている問題で、全体的な流れは示してはいるのだが、これも抽象論に過ぎない。
世の中は、そんなに公式や予測どおりには進まない。
そんな効率第一だけが物差しであった日本でも、それを人を大切にする闘いは行なわれ続けてきたのだ。
私は彼の著作は初めて読むが、「ビジネスモデル小説の第1人者」とのキャプションで、どのような小説を書いているのか?
城山三郎や清水一行のような骨のある作品か、真山仁のようなヒーローものだろうか?
いずれにしても経済取材が必要だろうが、その結論がこの抽象的な「人不要論」では、あまりにも切なすぎるし、どんな角度で取材をしているのかと問いたくなった。
著者も60前で、あと20年ほど生きるとして、このようなわけもわからぬ恐怖感に踊らされながら生涯を過ごすのだろうか?と要らぬ心配をしてしまった。