日本版CDC」を緊急時に機能させるためには
新たな感染症危機に対応する「国立健康危機管理研究機構」
新組織の特徴は主に以下の3点であると考えられる※1。
1点目は、基礎研究から臨床研究までの橋渡し・連携機関としての役割である。感染研の基礎研究力に、NCGMの「臨床機能(病院)」を統合することで、迅速に感染症の実態把握が可能となる。新型コロナウイルス感染症発生時には、患者の臨床情報が集約できず、実態に即して適時適切な対策を執ることが難しかったとされている。新たな感染症の発生初期に患者を診療するNCGMと、患者の発生動向等の疫学研究やゲノム解析などを行う感染研が統合することで、速やかな感染症の実態把握が可能となることが期待できる。
2点目は、特例的な人材確保のための給与規定である。国際的に卓越した能力を有する人材を確保する必要性から、調査・研究・分析・技術の開発に従事する研究者の給与などについての配慮規定が設けられた。
3点目は、NCGMが連携する病院を活用して国内外の治験ネットワークを構築することで、迅速な医薬品開発につなげる方向性が示された点である。
新組織は新型コロナの反省を踏まえつつ、次のパンデミックに向けた大きな一歩になると考えられるが、さらに以下のような点に留意しつつ、より現実的かつ持続可能な体制を構築することが必要である。
全国の臨床情報を収集・活用するための仕組みの活用促進
新型コロナの発生時、感染研が所管する感染症発生情報システム(感染症サーベイランスシステム)と臨床情報が連携できず、感染症の実態が意思決定機関である政府に十分情報収集できなかったことが問題となった。
新組織内の臨床情報だけではなく、全国の感染症指定医療機関などの臨床情報を収集・対策に活用する仕組みが必要である。
緊急時に大学、企業の研究者を招集可能なバーチャル組織の構築を
新型コロナ対策において日本の対応で画期的だったのは、感染の初期に「クラスター対策班」として、北海道大学、東北大学などのチームを対策本部内に取り込んだことである※3。しかし、当時は研究者のボランタリーな活動であり、情報収集基盤やデータ利活用ルールの未整備、ガバナンスが効かせられないなど、さまざまな問題が生じ、集まった専門家の力を十分活用できなかった面がある。
新組織では、さらに製薬企業なども含めた専門人材を組織内に取り込み、政府の意思決定者にインプットしながら、研究開発を進める体制を構築することが重要であると考えられる。そのためには、平時からその仕組みの構築などが重要となる。
例えば米国では、新型コロナ対応時、創薬を加速化するための会議体として、NIH(米国国立衛生研究所)の指揮の下「ACTIVパートナーシップ」が創設された※4。
研究者個人のインセンティブ:キャリアパス・評価の明確化
平時から新組織の特別研究員として登録(登録することで大学のインセンティブも付与)し、組織内のキャリアパスに優位になる仕組みを創設。
平時から国のデータを活用した論文執筆を可能とする(優先的なデータアクセス権など)。
大学や企業へのインセンティブ:報酬や事業推進の支援
研究員や職員を新組織の特別研究員として登録することでインセンティブ付与(当該研究員の研究費の間接経費分を所属組織に配分など)。
新組織から、臨床試験のパートナー機関との連携支援が受けられる、データや検体の優先利用を可能とする、など。
新型コロナの収束とともに、対応が縮小することがないよう、2025年の新組織創設までに、具体的な仕組みを含めて、持続可能な体制を構築・整備することが肝要となる。
※1:第134回厚生科学審議会科学技術部会、資料7「国立健康危機管理研究機構について」
https://www.mhlw.go.jp/
※2:第211回国会 参議院内閣委員会(2023年4月20日)
※3:厚生労働省「新型コロナウイルス クラスター対策班の設置について」(2020年2月25日)
https://www.mhlw.go.jp/
※4:三菱総合研究所「新興再興感染症ワクチン開発への持続的かつ迅速な対応等に資する海外動向調査」報告書(2022年3月25日)
https://www.amed.go.jp/
※5:NIH“ACCELERATING COVID-19 THERAPEUTIC INTERVENTIONS AND VACCINES (ACTIV)”
https://www.nih.gov/
※6:厚生労働省「新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議 報告書」(2010年6月10日)
https://www.mhlw.go.jp/
- ヘルスケア&ウェルネス本部平川幸子
新たな感染症危機に対応する「国立健康危機管理研究機構」
新組織の特徴は主に以下の3点であると考えられる※1。
1点目は、基礎研究から臨床研究までの橋渡し・連携機関としての役割である。感染研の基礎研究力に、NCGMの「臨床機能(病院)」を統合することで、迅速に感染症の実態把握が可能となる。新型コロナウイルス感染症発生時には、患者の臨床情報が集約できず、実態に即して適時適切な対策を執ることが難しかったとされている。新たな感染症の発生初期に患者を診療するNCGMと、患者の発生動向等の疫学研究やゲノム解析などを行う感染研が統合することで、速やかな感染症の実態把握が可能となることが期待できる。
2点目は、特例的な人材確保のための給与規定である。国際的に卓越した能力を有する人材を確保する必要性から、調査・研究・分析・技術の開発に従事する研究者の給与などについての配慮規定が設けられた。この規定により、従来の国家公務員の規定にとらわれない人材確保が可能となる。
3点目は、NCGMが連携する病院を活用して国内外の治験ネットワークを構築することで、迅速な医薬品開発につなげる方向性が示された点である。
新組織は新型コロナの反省を踏まえつつ、次のパンデミックに向けた大きな一歩になると考えられるが、さらに以下のような点に留意しつつ、より現実的かつ持続可能な体制を構築することが必要である。
全国の臨床情報を収集・活用するための仕組みの活用促進
新型コロナの発生時、感染研が所管する感染症発生情報システム(感染症サーベイランスシステム)と臨床情報が連携できず、感染症の実態が意思決定機関である政府に十分情報収集できなかったことが問題となった。
新組織内の臨床情報だけではなく、全国の感染症指定医療機関などの臨床情報を収集・対策に活用する仕組みが必要である。
緊急時に大学、企業の研究者を招集可能なバーチャル組織の構築を
新型コロナ対策において日本の対応で画期的だったのは、感染の初期に「クラスター対策班」として、北海道大学、東北大学などのチームを対策本部内に取り込んだことである※3。しかし、当時は研究者のボランタリーな活動であり、情報収集基盤やデータ利活用ルールの未整備、ガバナンスが効かせられないなど、さまざまな問題が生じ、集まった専門家の力を十分活用できなかった面がある。
新組織では、さらに製薬企業なども含めた専門人材を組織内に取り込み、政府の意思決定者にインプットしながら、研究開発を進める体制を構築することが重要であると考えられる。そのためには、平時からその仕組みの構築などが重要となる。
例えば米国では、新型コロナ対応時、創薬を加速化するための会議体として、NIH(米国国立衛生研究所)の指揮の下「ACTIVパートナーシップ」が創設された※4。
研究者個人のインセンティブ:キャリアパス・評価の明確化
平時から新組織の特別研究員として登録(登録することで大学のインセンティブも付与)し、組織内のキャリアパスに優位になる仕組みを創設。
平時から国のデータを活用した論文執筆を可能とする(優先的なデータアクセス権など)。
大学や企業へのインセンティブ:報酬や事業推進の支援
研究員や職員を新組織の特別研究員として登録することでインセンティブ付与(当該研究員の研究費の間接経費分を所属組織に配分など)。
新組織から、臨床試験のパートナー機関との連携支援が受けられる、データや検体の優先利用を可能とする、など。
新型コロナの収束とともに、対応が縮小することがないよう、2025年の新組織創設までに、具体的な仕組みを含めて、持続可能な体制を構築・整備することが肝要となる。
※1:第134回厚生科学審議会科学技術部会、資料7「国立健康危機管理研究機構について」
https://www.mhlw.go.jp/
※2:第211回国会 参議院内閣委員会(2023年4月20日)
※3:厚生労働省「新型コロナウイルス クラスター対策班の設置について」(2020年2月25日)
https://www.mhlw.go.jp/
※4:三菱総合研究所「新興再興感染症ワクチン開発への持続的かつ迅速な対応等に資する海外動向調査」報告書(2022年3月25日)
https://www.amed.go.jp/
※5:NIH“ACCELERATING COVID-19 THERAPEUTIC INTERVENTIONS AND VACCINES (ACTIV)”
https://www.nih.gov/
※6:厚生労働省「新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議 報告書」(2010年6月10日)
https://www.mhlw.go.jp/
著者紹介
ズバリ聞きます! 感染症に備える日本版CDC(公明新聞より)
- https://www.komei.or.jp
- >2025/01/06
- >ズバリ聞きます...
4日前 -コロナ禍の教訓を踏まえ、新たな感染症の危機に備えるため、米国の疾病対策センター(CDC)をモデルにした専門家組織「国立健康危機管理研究 ...
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます