新時代の「ヒーロー」となった彼らの主張は、理屈を超えた「説得力」を帯び、社会的、文化的、政治的にもケタ外れの力を持っています。
この状況を憂慮し、警鐘を鳴らすのが、2024年にノーベル経済学賞を受賞した研究者、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授のダロン・アセモグルです。
このたび文庫化された『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊 (日経ビジネス人文庫)』の著者が、アセモグルの論考を軸に、現在の米国社会に流れる空気を読み解きます。(文中敬称略)

 イーロン・マスク、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグなど、テクノロジー系起業家として成功を収めた現代の大富豪たちは、影響力を持ちすぎている。

経済力にとどまらない強大な力は、もはや社会にとって危険であり、彼らを規制すべきだ──2024年にノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学(MIT)教授のダロン・アセモグルはこのように主張します。

 「金ぴか時代(the Gilded Age)」とは、1870年代~90年代に米国で資本主義が急速に発展した時代を指します。製鉄、鉄道、石油、金融などの産業が発展し、莫大な富を持つ資本家が誕生しました。鉄鋼王のアンドリュー・カーネギー、石油王のジョン・ロックフェラー、銀行王のジョン・ピアポント・モルガンなどが代表格です。

 この時代に現代をなぞらえ、アセモグルはこう指摘します。

 「世界を変える裕福で勇敢なビジネスマンのイメージは、少なくとも金ぴか時代の泥棒男爵にまで遡ることができる」

強欲でも「勇敢な男」は支持される

 「泥棒男爵(robber baron)」とは、裕福で権力を持ち、競争に勝つためならば、倫理に反する行動をいとわない資本家を批判的に指す言葉です。

19世紀に用いられるようになり、最初に使われたのは1859年、鉄道や蒸気船、不動産投資で財をなしたコーネリアス・ヴァンダービルトの汚いビジネス手法を風刺した、米ニューヨーク・タイムズ紙の記事だといわれています。

経済発展と同時に富の集中も進んだこの時代、資本家の強欲な振る舞いは、厳しい批判を浴びました。

 しかし、アセモグルの言葉が示唆するように、泥棒男爵のような成功した大富豪に対して米国人が抱くイメージは、必ずしも悪いものばかりではありません。

ときに「汚い」と思える手を使いながらも、彼らは、やはり「世界を変える勇敢な男たち」だったのです。

 マスク、ゲイツ、ザッカーバーグを“現代の泥棒男爵”とするなら、彼らが大衆に支持される構造は、映画「バットマン」や「アイアンマン」人気に通じると、アセモグルは指摘します。

マスク、ゲイツのほか、ジェフ・ベゾスの愛読書100冊を紹介する『天才読書』。このたび、新たに加筆・編集して文庫化された。本稿で触れた書籍3冊について、詳述している
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