2021年6月、アメリカの報道機関プロパブリカ(ProPublica)は同国大富豪に関する衝撃的な調査結果を掲載した。
この調査結果によれば、宇宙開発企業スペースX(SpaceX)や電気自動車企業テスラ(Tesla)のCEOを務めるイーロン・マスク氏、金融テクノロジー企業ブルームバーグ(Bloomberg L.P.)の創業者マイケル・ブルームバーグ氏ら著名な大富豪が、財産の割にほとんど納税義務を果たしていないというのだ。
一方で、中には種々の慈善活動に莫大な金額を拠出している大富豪もおり、その活動の恩恵を受けている人も少なくないだろう。また、彼らが巨大な富を集中させていること自体、社会に対して様々な影響を与えている。総合的に見て、果たして大富豪とは社会にとってポジティブな存在なのだろうか。ネガティブな存在なのだろうか。
この記事では大富豪たちの富の入手方法や使いみちにも焦点を当てつつ探っていこう。
目次
<label class="ez-toc-cssicon-toggle-label" for="ez-toc-cssicon-toggle-item-67a95c631e01f"></label><input id="ez-toc-cssicon-toggle-item-67a95c631e01f" type="checkbox" aria-label="トグル" />世界的な富の不平等
大富豪の存在について考察する前に、まずは世界で富がどのように分配されているのかを見ていこう。
一口に大富豪といっても保有資産の規模は様々だが、この記事では特に10億米ドル(およそ1,000億円)相当の資産を持つ個人、つまりビリオネアに着目したい。2021年4月にアメリカの経済誌「フォーブズ(Forbes)」が発表した世界長者番付の2021年版によると、世界には2,755人ものビリオネアが存在しており、彼らの資産総額は13.1兆米ドルにも上る。
また、資産額上位10人のビリオネアたちは合計1.1兆米ドル以上もの富を所有しており、これは多くの国のGDPを上回っている。100万米ドル相当の資産を持つミリオネアまで含めると、世界人口の1.1%の人々が世界の資産総額の45.8%を独占しているという。
このように巨額の富を持つビリオネアやミリオネアが存在する一方で、世界では非常に多くの人が貧困状態にある。所有資産
また、長年問題視されてきた気候変動もこの格差をさらに助長する。産業革命以来の人間の活動によって、温暖化や海面上昇、自然災害の頻発といった様々な気候の変化が起こっている。
この地球で生き残るためにビリオネアたちは着々と準備を進めている。たとえば、涼しく人口が少ない地域の市民権と土地、気温上昇や異常気象に備えた住居を確保することでいざという時に移住できるようにした者がいる。一方、貧困状態にある人々は日々の生活で手一杯でそうした準備に資産を割くことができない。
結果として、貧困層が気候変動の影響を正面から受け、より一層厳しい生活状態に置かれることとなる。この事態は気候アパルトヘイトと呼ばれる。
さらに事態に追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスだ。パンデミックの影響により世界中で失業率が急増し、2020年には2億5,500万人のフルタイム労働が失われたという。
その結果、20年以上にわたって減少し続けていた極度の貧困状態(1日1.9米ドル未満の所得)で暮らす人々の数が初めて増加に転じ、2020年には前年と比較し、新たに1億1,900万から1億2,400万もの人々が極度の貧困に追いやられたという。
一方で、2020年3月18日から12月31日の間に世界中のビリオネアの総資産は3.9兆米ドルという驚異的な規模で増加した。
たとえば、多国籍テクノロジー企業アマゾン(Amazon)の創業者であり、世界資産ランキング4年連続1位のジェフ・ベゾス氏の資産は、2020年3月18日からわずか5か月の間に920億米ドルも増加した。
その結果、パンデミック以前の資産額を減らさずとも、アマゾンの従業員876,000人全員に彼の個人資産から105,000米ドルずつのボーナスを支給することができるという。
ここまで示した事柄から、少数のビリオネアたちが世界の富の多くを独占している中、十分な食料や保健医療、教育へのアクセスを持たず命を落とす人が大勢いるということが見て取れる。
また、持てる者と持たざる者の格差は増大する一方であることもうかがえる。
他方、ビリオネアたちは社会や経済においてイノベーションをもたらした、あるいはその富を得るために大きな努力したので多くを得て当然だ、という意見をもつ人がいるかもしれない。果たして本当にそうだろうか。
彼らは一体どのように富を入手しているのだろうか。以下で、彼らの富の入手方法について見ていこう。
富の入手方法
世界のビリオネアたちは、新たに開発した技術や物品の販売、株の売買など様々な方法を用いて富を入手するが、彼らがビリオネアたり得る根本的な理由として、まず規制なしの資本主義について触れておきたい。
多くのビリオネアは労働者ではなく、労働者が生み出す付加価値を抽出する資本家である。
彼らは労働者に工場や機械等の資本を提供し、それを用いて労働者が生産活動を行う。たとえ劣悪な待遇であったとしても労働者たちは生き延びるために働かなければならず、資本家はそれを利用し多くを搾取する。
かくして資本家は労働をせずとも富を得ることができ、ビリオネアへと成長していくのだ。この過程で、彼らはその富を守るような政府からの支援も受けている。ビリオネアとして支援を受けるものがある一方で、貧困状態に
額1万米ドル以下の層は約29億人と世界人口の約37%を占めるにもかかわらず、彼らの資産を合計しても世界中の富のわずか1.3%ほどにしかならない。資産が少ない背景として当然所得の少なさが挙げられる。
所得も資産も少なく、その結果貧困状態に陥るのだ。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」では、特にサハラ以南や南アジアに蔓延している深刻な貧困状態を受け「極度の貧困をなくそう」という目標が設定されている。しかしこのまま大きな変化がない限り達成期限の2030年でも5億人以上が極度の貧困状態に取り残されてしまう見込みである。
ありながら福祉を享受できないケースもある。これらはビリオネアの存在を容認する社会システムの問題であると同時に、富を持つものが政治的な声や力をより高めていき、自身に有益な社会を作ろうとしてきた結果である。以下で、ビリオネアらがどのように守られているのかということにも留意しつつ、彼らの財源について探っていこう。
元アメリカ労働長官のロバート・B・ライシュ氏によると、アメリカのビリオネアたちに着目してその財源の多くは①独占 ②インサイダー取引 ③ 政治への関与 ④相続の4つからなるという。それぞれ詳しく見ていこう。
まずは独占についてその様相を概観したい。ビリオネアたちは、特許制度や競合他社の買収により市場を独占することで巨額の資産を得ている。たとえば世界資産ランキング16位、メキシコ随一のビリオネアであるカルロス・スリム氏は、他国の通信会社との共同出資によりメキシコ国営の固定電話会社テルメックス(TELMEX)を買収した。
同社は国内シェア90%を誇る大企業だったので、彼は携帯電話回線市場の70%、固定電話市場の80%に近いシェアを持つことになり、事実上の独占状態であった。
このような市場の独占あるいは寡占下では競争が弱まるので、商品の価格が不当に吊り上げられやすくなり、運営資金や新たな開発資金獲得のために不可避的に価格が上昇するのではなく、取れるから取る、取れるだけ取ることが可能となってしまう。
また新規参入が困難となるため、独占外にある企業だけでなく独占状態にある企業のイノベーションをも阻止することになり、社会全体にネガティブな影響をもたらすのである。
なお、資金が多ければ多いほど他社の買収や提訴、独占状態を作り出すための関連企業とのタイアップ等は容易になるため、競争には有利になる。つまり、持てる者がさらに多くの利益を獲得しやすい仕組みといえるだろう。
次に、インサイダー取引は富をもたらす装置としてどのように働くのか見ていこう。インサイダー取引とは「上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社株等を売買することで、自己の利益を図ろうとするもの」であり、各国の法律で規制されている。
たとえば、2009年にヘッジファンドのガレオン・グループ創業者であるラジ・ラジャラトナム氏が大規模なインサイダー取引に関与し、有罪判決が下された事件が挙げられる。この取引では少なくとも2,000万米ドルの不当な利益が生み出されたという。
さらに、ビリオネアらによる政治への関与について見ていこう。富と権力が結びつきやすいというのは想像に難くないように、ビリオネアたちは直接、あるいは間接的に政治に関与することができる。
たとえば、その巨額の富を用いて自分に有利な政策を掲げる政治家に選挙献金を行ったり、舞台裏での様々なロビー活動を通して、自身に有利な政策の制定に影響力を持つことができる。また報道機関のオーナーとなったり、シンクタンクを設立するなどにより、政治家やその政策に対する世論の形成に関わることができる。
さらには自ら政治家に転じることもある。アメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏の「自分が納めている所得税の税率は秘書よりも低い」という発言が話題となったが、ビリオネアたちは直接的・間接的な政治への関与を通して所得、法人、相続などの税制度や、独占に関わる規制緩和、所有権や特許に関する規制強化など、大富豪や大企業に有利な法整備を行うことができるのだ。その結果富裕層に優しく貧困層には住みにくい社会が構築され、格差は広がる一方である。
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