2013/8/1(木) 10:05配信 上昌広/内科医・東京大学医科学研究所特任教授】
国会のチェックなしに決まる薬価
中医協を構成するのは、厚労省と日本医師会、保険者、製薬企業関係者などの業界関係者だ。 国会のチェックも受けない一つの審議会で、薬や医療行為の価格が、全国一律に決定されるのだから、そこには様々な思惑が反映される。医薬品も例外ではない。 医薬品は、大きく三種類に分類できる。それは特許期間中のブランド薬(新薬)、特許が切れたブランド薬(長期収載品)、そしてジェネリックだ。
我が国の薬価の特徴は、新薬が安いことだ。例えば、大塚製薬の新薬トルバプタン
我が国の薬価は、米国の8分の1、欧州の3分の1程度である。
これは、特許がきれると、新薬の価格の1%程度の値段のジェネリックが出現する米国とは対照的だ。 0
2009年時点で、我が国の医療用医薬品に占める新薬の比率は49%、長期収載品は44%だ。
米国では、それぞれ74%、13%。欧州では60%、20%程度だ。
「日本の製薬市場はぬるま湯」
製薬企業に勤める知人は、「日本の製薬市場はぬるま湯」と言う。新薬を開発し続けないかぎり、市場から退場せざるを得ない米国市場とは対照的だ。
世界の新薬が、我が国では使えないという、ドラッグ・ラグが社会問題となっているが、その理由は、政府による薬価統制だ。
薬価を決めることで、厚労省や中医協は大きな権限を持つが、それが製薬業界に歪みをもたらしている。
バルサルタン事件も、薬価統制の障害の一つと考えることが可能だ。製薬企業は株式会社である。
利潤を最大にすべく、企業同士が競争する。バルサルタンを販売するノ社の場合も、同じような薬を販売する武田薬品、第一三共などと熾烈な競争を繰り広げていた。
通常、企業間が競争する場合、コストを切り詰め、価格を下げようとする。最近のスマートフォンの価格破壊をみれば、明らかだろう。
接待がわりに大学に奨学寄付金
中心は医師への接待だ。ただ、この方法は、国公立病院の医師には通用しないし、近年、医師と製薬企業の癒着が指摘され、民間病院でも遠慮するところが増えてきた。
その代わりに増えたのが、大学への奨学寄付金だ。製薬企業に務める知人は「国公立の病院の先生への接待費のようなものです。資金は営業経費から出ます」という。
薬を売るには、営業しなければならない。その一つが奨学寄付金だ。おそらく、奨学寄付金のあり方を透明にしても無駄だ。前述の知人は「財団を経由した迂回寄附にします」という。
この問題を解決するには、製薬企業が公正に競争できるよう、価格統制を緩和する必要がある。ただ、それには厚労省や業界関係者の反対が強い。
原発利権と似た構図
「座談会」という形式をとることもあれば、都内のホテルを借り切って、「講演会」というスタンスをとることもある。お金は、製薬企業からメディア、そして医師へと流れる。教授クラスになれば、一回で15万円程度の講演料を貰う。ちょっとした小遣い稼ぎだ。「講演会」の場合、ホテルや飲食店もおこぼれに預かる。
国民が負担する薬剤費は年間約6兆円だから、その一割が使われたとしても、その金額は膨大だ。
バルサルタン事件について、当初からノ社を批判したのが、毎日新聞、フライデーという医薬品の広告にありつけないメディアであったことは示唆に富む。製薬企業が、メディアを支配していることになる。
役所による価格統制、ボロ儲けする企業、企業と専門家の不適切な関係、さらに広告によるメディア支配。実は、この構図は原発利権とそっくりだ。原発利権が、どうやって崩壊したか。
それは、国民の怒りだ。今回の問題を解決するのに必要なのは、国民が真相をしり、怒ることだ。表層をなぞっただけでは、問題は解決しない。
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