「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・04・18

2007-04-18 06:20:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集「『戦前』という時代」の「あとがき」から。

 「『戦前』という時代は誤り伝えられている。私はついぞ飢えたことがなかったと言っておかないと誤解されたままになる。仙台ほどの町でも米はあったのである。それなら山形にも福島にもあっただろう。
 何より買いだしだのヤミだのという。売るものがなければ買えない。千葉埼玉茨城――東京の近在でも自分たちが食べてなお売るものを持っていたのである。つまり日本人の大半は食うに困っていなかったのである。「『戦前』という時代」はこれだけのことを言うために書いたが、何ぶん敵は幾万で私は一人だから長いわりに肝心なことを言うのを忘れた。戦前という時代を満州事変(昭和6年)から数えて十五年間まっ暗だったというものがあるが、これは今日の目を以て昨日を論ずるたぐいである。満州事変はこれで景気がよくなると国民の過半は歓迎したのである。」

   (山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする