今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「林真理子嬢ははじめコピーライターだったそうで、『いつまでも世間知らず』『スキャンダル大好き』『早くなりたや文化人』などというタイトルにはその名残がある。彼女は有名になりたくてなったという、それはテレビに出たおかげで、出たら芸人になったような気分がしたという。
あこがれのタレントが自分より背が低いのにはじめ驚き、次いでテレビは真を伝えそうでいて伝えないと知ったという。私(林)はその犠牲者で誤って『チビのブス』と見られている。
――(いま)私って、なんだか大胆なことを口走ったみたい。けれども私を肉眼で見た人が、『あら、背が高くて素敵じゃない』っていうのは本当よ。本当だから。
――私は世間知らずだ。けれどもこの世の中には、知らなければならないことが充満している。それにいちいちかかわり合っていたら、遊ぶ時間も恋(!)をする時間もなくなる。だから私は『無知』とか『物しらずのクセして文章なんか書いて』などという陰口にもめげず書いていたの。そしたら知らぬまに『林真理子流、ブスでも結婚できる』。
忙しさのあまり電車に乗ることもなく、なんだかうきうきと『世間知らず』をしていた間に、これほど大きく『ブス』と電車の中吊りに書かれて、世間の物笑いになっていたのね。くやしい。」
(山本夏彦著「生きている人と死んだ人」文春文庫所収)
「林真理子嬢ははじめコピーライターだったそうで、『いつまでも世間知らず』『スキャンダル大好き』『早くなりたや文化人』などというタイトルにはその名残がある。彼女は有名になりたくてなったという、それはテレビに出たおかげで、出たら芸人になったような気分がしたという。
あこがれのタレントが自分より背が低いのにはじめ驚き、次いでテレビは真を伝えそうでいて伝えないと知ったという。私(林)はその犠牲者で誤って『チビのブス』と見られている。
――(いま)私って、なんだか大胆なことを口走ったみたい。けれども私を肉眼で見た人が、『あら、背が高くて素敵じゃない』っていうのは本当よ。本当だから。
――私は世間知らずだ。けれどもこの世の中には、知らなければならないことが充満している。それにいちいちかかわり合っていたら、遊ぶ時間も恋(!)をする時間もなくなる。だから私は『無知』とか『物しらずのクセして文章なんか書いて』などという陰口にもめげず書いていたの。そしたら知らぬまに『林真理子流、ブスでも結婚できる』。
忙しさのあまり電車に乗ることもなく、なんだかうきうきと『世間知らず』をしていた間に、これほど大きく『ブス』と電車の中吊りに書かれて、世間の物笑いになっていたのね。くやしい。」
(山本夏彦著「生きている人と死んだ人」文春文庫所収)