「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・04・09

2007-04-09 09:05:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「林真理子嬢ははじめコピーライターだったそうで、『いつまでも世間知らず』『スキャンダル大好き』『早くなりたや文化人』などというタイトルにはその名残がある。彼女は有名になりたくてなったという、それはテレビに出たおかげで、出たら芸人になったような気分がしたという。
 あこがれのタレントが自分より背が低いのにはじめ驚き、次いでテレビは真を伝えそうでいて伝えないと知ったという。私(林)はその犠牲者で誤って『チビのブス』と見られている。

 ――(いま)私って、なんだか大胆なことを口走ったみたい。けれども私を肉眼で見た人が、『あら、背が高くて素敵じゃない』っていうのは本当よ。本当だから。
 ――私は世間知らずだ。けれどもこの世の中には、知らなければならないことが充満している。それにいちいちかかわり合っていたら、遊ぶ時間も恋(!)をする時間もなくなる。だから私は『無知』とか『物しらずのクセして文章なんか書いて』などという陰口にもめげず書いていたの。そしたら知らぬまに『林真理子流、ブスでも結婚できる』。
  忙しさのあまり電車に乗ることもなく、なんだかうきうきと『世間知らず』をしていた間に、これほど大きく『ブス』と電車の中吊りに書かれて、世間の物笑いになっていたのね。くやしい。」

   (山本夏彦著「生きている人と死んだ人」文春文庫所収)
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