「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・04・19

2007-04-19 07:15:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集「『戦前』という時代」の「あとがき」から、昨日の続きです。

 「二・二六事件(昭和11年)でさえ暗殺はよくないが政党者流はもっとよくない。青年将校の憂国の至情は諒とするという全国からの減刑嘆願書が、ほらこんなにきている、血書まであると新聞は手紙の山を示したから嘆願書はいよいよ集まったのである。
 血気の若者が寄ってたかって老人を殺す、しかもそれが軍人だとは――と咎める市井の声を田中美知太郎氏はその日記にとどめているが、このたぐいは新聞には全く出なかった。
 昭和十六年になっても日本人の過半はまさかアメリカと戦争しようとは思っていなかった(子供は然らず)。だから十二月八日には仰天した。けれどもたちまち勝報が相次いだので愁眉を開いて、戦勝気分はあくる十七年まで続いたのである。つまり十七年までまっ暗ではなかったのである。」

  (山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
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