「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2009・10・25

2009-10-25 09:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」。

 「チェホフを読むやしぐるる河あかり」 (森澄雄)


  「鶴岡は人口十万に満たない城下町で、市内を南から
   東北にかけて川が流れる。その町に十一月がおとずれると、
   町の上を覆う雲も町の中を流れる川もにわかに暗くなった。
   ことに夕方、ひとしきりしぐれが降って去ったあとは、
   町ははやばやと夕闇につつまれ、わずかに西空の端に
   のこる赤黒い雲が投げかける微光が川の上にとどまる
   だけになる。荒涼とした光景だった。
   森の句が私の心の中に喚起するのは、そのような初冬の
   郷里のイメージなのだが、奇怪なことにこの句の中には
   若かったころの私がいる。私は燈がともる河畔の喫茶店
   にいて、読みつかれたチェホフからふと上げた眼を、寒
   寒と暮れて行く川に投げているのである。」

                       (藤沢周平)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする