今日の「お気に入り」。
「チェホフを読むやしぐるる河あかり」 (森澄雄)
「鶴岡は人口十万に満たない城下町で、市内を南から
東北にかけて川が流れる。その町に十一月がおとずれると、
町の上を覆う雲も町の中を流れる川もにわかに暗くなった。
ことに夕方、ひとしきりしぐれが降って去ったあとは、
町ははやばやと夕闇につつまれ、わずかに西空の端に
のこる赤黒い雲が投げかける微光が川の上にとどまる
だけになる。荒涼とした光景だった。
森の句が私の心の中に喚起するのは、そのような初冬の
郷里のイメージなのだが、奇怪なことにこの句の中には
若かったころの私がいる。私は燈がともる河畔の喫茶店
にいて、読みつかれたチェホフからふと上げた眼を、寒
寒と暮れて行く川に投げているのである。」
(藤沢周平)
「チェホフを読むやしぐるる河あかり」 (森澄雄)
「鶴岡は人口十万に満たない城下町で、市内を南から
東北にかけて川が流れる。その町に十一月がおとずれると、
町の上を覆う雲も町の中を流れる川もにわかに暗くなった。
ことに夕方、ひとしきりしぐれが降って去ったあとは、
町ははやばやと夕闇につつまれ、わずかに西空の端に
のこる赤黒い雲が投げかける微光が川の上にとどまる
だけになる。荒涼とした光景だった。
森の句が私の心の中に喚起するのは、そのような初冬の
郷里のイメージなのだが、奇怪なことにこの句の中には
若かったころの私がいる。私は燈がともる河畔の喫茶店
にいて、読みつかれたチェホフからふと上げた眼を、寒
寒と暮れて行く川に投げているのである。」
(藤沢周平)