今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。
「私は今が生涯で一番幸せだと思う。
七十歳は、死ぬにはちょうど良い年齢である。
思い残すことは何もない。これだけはやらなければなどという仕事は嫌いだから当然ない。
幼い子供がいるわけでもない。
死ぬ時、苦しくないようにホスピスも予約してある。
家の中がとっちらかっているが、好きにしてくれい。
あの世などあると思わないが、もしあって親父がいたら、私は親父より二十も年上なので、
対応に困ると思う。
すっげえ貧乏をした。私が学んだことは、全て貧乏からだった。
金持ちは金を自慢するが、貧乏人は貧乏を自慢する。
みんな自慢しなければ生きていけないんだな。
夕食の時の訓辞にもう一つあった。
『一番大事なものは金で買えない』
私にとって一番大事なものは何だったのだろう。
『情』というものだったような気がする。」
(佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)
大事なものは只では得られない・・・か。