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今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。
「 根が貧乏性の私は物欲がないのである。
食欲もないのである。
性欲もないのである。
もう物をふやしても困るのである。
もう男もこりごりである。七十でこりごりと言うと笑われる。今からお前、
男つくれるのか?はい、つくれません。
私はガンになっても驚かなかった。
二人に一人はガンである。
ガンだけ威張るな。もっと大変な病気はたくさんある。リューマチとか、
進行性筋萎縮症とか、人工透析をずっとずっとやらねばならぬ病気とか。
ガンは治る場合も大変多い。治らなければ死ねるのである。
皆に優しくされながら。
私はウツ病と自律神経失調症の方がずっと苦しくつらかった。
ウツ病は朝から死にたいが、死んではいけない病気である。自殺は周りに
迷惑をかける。私は息子がいなかったら、ウツ病で死んでいたと思う。親
が自殺した子供にしたくなかった。あの時は子供に命を助けてもらった。」
(佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)
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