今日の「お気に入り」。
「 筒井筒 井筒にかけしまろが丈(たけ)
生(お)ひにけらしな 妹(いも)見ざる間に 」
「 比(くら)べ来(こ)し 振分け髪も肩過ぎぬ
君ならずして誰(たれ)か上(あ)ぐべき 」
「 初めの業平から紀有常の娘への歌は、小さいころ、この井筒と比べた私の背丈
も、いつのまにか井筒を越してしまいました。あなたと逢(あ)わないでいるうちに、
という意味であり、娘からの返歌は、あなたと比べ合ってきた私の振分け髪も伸びて、
もう肩を過ぎました。あなたでなくて誰がこの髪を結い上げるのでしょう、そう訳すのが
たぶん正しいと思う、と。 」
「 二人の子、互ひに五歳にして井筒の指出(さしい)でたるに長(たけ)をくらべて、
これより高く成(なり)たらん時は、夫婦にならむと契(ちぎ)りけり 」
( 宮本輝著 「 慈雨の音 ‐ 流転の海 第六部 ‐ 」新潮文庫 所収 )