「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2019・11・11

2019-11-11 04:44:00 | Weblog





  今日の「お気に入り」。


   「 アイデンティティという、日本人の大好きな言葉がある。日本語に訳すとありがたみが

    薄れるかもしれないが、本質とか本性とかを意味する言葉と思う。私はこれを、二つに

    分けて考えることにしている。閉じられたアイデンティティ、と開かれたアイデンティ

    ティ、の二つだ。この分類法を個人にあてはめてみると、閉じられたアイデンティティ

    のほうはその人がもともともっている性質
であり、開かれたアイデンティティは、その

    人が出会う環境によって、その人自身が変ることによって形成される性質
、というわけ

    だ。もちろん、いかに環境によって変るとはいえ、もともとの本性とは完全に別の性質

    になれるわけはない。家猫は竹林に放り出されてもやはり猫で、虎に変りはしない。

    しかし、暖かい家の中から竹林に環境が変れば、野生猫ぐらいには変るだろう。変らな

    ければ、死ぬしかないからである


     これを、ルネサンス時代のイタリアの政治思想家マキアヴェッリは、時代に合わせる才

    能
、とした。いかに能力に優れ、いかに好運に恵まれた人でも、その人が生きる時代に

    合致しなければ成功の存続は望めないのだ、と言って。

     要するに、いかに能力に秀で好運に恵まれた人でも、時代の要求に答えることのでき

    ない人は、早晩衰退するしかないのである。なぜなら、これまたマキアヴェッリによ

    れば、時代というものは変るものであり、昨日まで良かったことが明日も良いとはか

    ぎらない
からである
。 」


     ( 塩野七生著「想いの軌跡」(新潮文庫)新潮社刊 所収 )



                   
                 



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