「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2019・11・09

2019-11-09 05:59:00 | Weblog








  今日の「お気に入り」。


   「 私の考えでは、国家ないし民族は、大別すれば二種に分類できるのではないかと

    思う。

     第一種は、あらゆる手はつくしたにかかわらず、衰退を免れることはできなか

    った国家。俗に言えば、天寿をまっとうしたと言える国家(レス・プブリカ)で

    ある。古代のローマ、中世のヴェネツィアは、私の考えではこの種に属す。

     第二種は、持てる力を活用しきれなかったがゆえに衰退してしまった国家だ

    から、天寿をまっとうしたとは言えない夭折組(ようせつぐみ)に属す。その

    典型は、古代ギリシアのアテネと中世のフィレンツェだろう。 」


   「 史書の傑作が生れる条件の一つは、書き手の心中がいきどおりや強烈な怒り

    で破裂しそうになっていることにある。」


   「 フィレンツェ市民のマキアヴェッリには、『質』では優れているフィレンツェ

    共和国もふくむルネサンス・イタリアが、なぜフランスをはじめとする『量』

    に敗れるのかという、他に転嫁しようもないいきどおりがあったのである。

     反対に、ローマ最高の史家とされているタキトゥスには、ペシミズムはあっ

    ても怒りはなく、ヴェネツィア共和国には、冷静な記録者は生れても、マキ

    アヴェッリに匹敵する歴史家は生れなかった。

     いきどおりや怒りは、もともとからして力量のない者には向けられないので

    ある。力はあるのにその活用を知らなかった者に対してならば、ぶつけるに

    値する感情ではあるけれど。


   
     ( 塩野七生著「想いの軌跡」(新潮文庫)新潮社刊 所収 )




                 
  






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