今日の「 お気に入り 」は 、ノンフィクション作家 ビル・ブライソンさん の
著書 " The Body ― A Guide for Occupants " からの 抜き書き 。
ヒトを行動に駆りたてる「 情念 」、「 執念 」、「 情熱 」、 「 記憶 」、・・・ 。
すべて 、脳 のうちにある 。玄妙な 器官 だなあ 、ほんと 。
国産だけど 、部品の取り替えきかず 。年古れば 、バグるのもやむなしか 。
" The great paradox of the brain is that
everything you know about the world is provided to you by an organ
that has itself never seen that world. The brain exists in silence and
darkness, like a dungeoned prisoner. It has no pain receptors, literally
no feelings. It has never felt warm sunshine or a soft breeze. To your
brain, the world is just a stream of electrical pulses, like taps of Morse
code. And out of this bare and neutral information it creates for you —
quite literally creates ― a vibrant, three-dimensional, sensually engaging
universe. Your brain is you.
Everything else is just plumbing and scaffolding. "
" ・・・ Your brain requires only about four hundred calories of energy a
day ー about the same as you get in a blueberry muffin. Try running
your laptop for twenty-four hours on a muffin and see how far you get.
Unlike other parts of the body, the brain burns its four hundred calories
at a steady rate no matter what you are doing. Hard thinking doesn't
help you slim. "
" ・・・ nothing about your brain is distinctively human. We use exactly
the same components — neurons, axons, ganglia, and so on — as a
dog or a hamster. "
" ・・・ the brain manufactures all the components that make up our
senses. It is a strange, nonintuitive fact of existence that photons of
light have no color, sound waves no sound, olfactory molecules no
odors. As James Le Fanu has put it, " While we have the overwhelming
impression that the greenness of the trees and the blueness of the sky
are streaming through our eyes as through an open window, yet the
particles of the light impacting on the retina are colourless, just as the
waves of sound impacting on the eardrum are silent and scent molecules
have no smell. They are all invisible, weightless, subatomic particles
of matter travelling through space. " All the richness of life is created
inside your head. What you see is not what is but what your brain tells
you it is, and that's not the same thing at all. "
" The upshot is that memory is not a fixed and permanent record, like a
document in a filing cabinet. It is something much more hazy and mu-
table. As Elizabeth Loftus told an interviewer in 2013, " It's a little more
like a Wikipedia page. You can go in there and change it, and so can
other people. "
( 出典 :Bill Bryson 著 " The Body ― A Guide for Occupants " .
Knopf Doubleday Publishing Group. 刊 )
上掲の英語の文章は 、翻訳本の中で 、次のように 見事に 日本語訳されています 。
プロのお仕事 。
「 脳には重大なパラドックスがある 。世界について知っている
すべてのことは 、世界を直接見たことのない器官によっても
たらされている 。脳は 、地下牢に閉じ込められた囚人のよう
に 、ひっそりとした暗がりに存在する 。脳自体には痛覚受容
体はなく 、文字どおり無感覚だ 。温かい太陽の光も 、柔らか
いそよ風もまったく感じていない 。脳にとって 、世界はモー
ルス信号のトンツー音のような 、単なる電気パルスの流れだ 。
そして 、その淡々としたおもしろみのない情報から 、あなた
のために 、生き生きとして立体的で官能を刺激する宇宙をつく
っている — そう 、文字どおりの意味で 、つくっている 。
あなたの脳こそが 、あなただ 。
その他すべては 、配管や足場にすぎない 。」
「 脳は 、一日約四百キロカロリーのエネルギーしか必要としな
い 。ブルーベリーマフィン一個でとれる程度のカロリーだ 。
マフィン一個で二十四時間ノートパソコンを動かして 、どの
くらい仕事がはかどるか考えてみるといい 。
体の他の部分とは違って 、何をしていようと 、脳は一定の
速度でその四百キロカロリーを消費する 。懸命に何かを考え
ても瘦せるわけではない 。」
「 ・・・ ヒトの脳には何ひとつ 、独自の特徴はない 。犬や
ハムスターとまったく同じ構成要素 ― ニューロン 、軸索 、
神経節 、その他 — を使っている 。」
「 ・・・ 脳は五感を形成するすべての要素をつくり上げてい
る 。光の粒子である光子に色がなく 、音波に音がなく 、
匂いの分子に匂いがないというのは 、奇妙でにわかには
信じがたいが 、厳然たる真実だ 。イギリスの医師で作家
のジェームズ・レ・ファニュは 、こう語った 。『 わたし
たちは 、木々の緑や空の青さが 、あいた窓から流れ込む
かのごとく目から入ってくることにたとえようのない感銘
を受けるわけだが 、実際には 、網膜に衝突する光の粒子
は無色で 、同じく鼓膜に衝突する音波は無音 、匂いの分
子は無臭だ 。それらはみんな 、目に見えず重さもない 、
空間を移動する原子より小さい粒子なのだ 』 。人生の豊
かさはすべて 、頭の中でつくられる 。見えているものは
実際の姿でなく 、そういう姿だと脳が教えているもので
あり 、ふたつはまったく別のものだ 。」
「 要するに 、記憶はファイリング・キャビネットに収めた
書類のように固定された永久の記録ではない 。もっとず
っと漠然としていて 、移ろいやすいものなのだ 。エリザ
ベス・ロフタスは 、2013年のインタビューでこう語
った 。『 少しウィキペディアのページに似ています 。
あなたはそこに入っていって書き換えることができるし 、
ほかの人も同じように書き換えられます 。』 」
( 出典 : ビル・ブライソン著 桐谷知未訳 「 人体大全 ― なぜ生まれ 、
死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか ― 」新潮社 刊 )