「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

鱶 (フカ) 鮫 (サメ) 和邇 (ワニ) Long Good-bye 2024・06・22

2024-06-22 04:00:00 | Weblog

 

 今日の「 お気に入り 」は 、内田百閒さん

 ( 1889 - 1971 )の随筆「 御馳走帖 」( 中公

 文庫 )の中から「 蒲鉾 」とした小文 の一節 。

  引用はじめ 。

 「 私の郷里の岡山に昔から名代の蒲鉾屋があつて 、
  今はなくなつたさうだが 、当時は近国にまでそ
  の名が知れ渡つてゐた 。
   子供の時に聞いた話に 、その蒲鉾屋の横山の
  御主人がみんなと一緒に船に乗つて 、金比羅
  詣りをした 。船は岡山の町を貫流してゐる旭
  川を下つて 、川口の児島湾から外海(そとうみ)
  に出る 。外海と云ふのは瀬戸内海の事であつて 、
  対岸の四国の讃岐へ渡るのであるが 、小さな船
  の事だから手間が掛かつた事であらう 。
   船が沖に出た頃 、不意に鱶(ふか)が船をつけ
  て来たので 、船中が大騒ぎになつた 。鱶は群
  をなして来るし又一匹でも人の乗つた船をくつ
  がへす事が出来る 。鱶につけられた以上は 、
  船の中のだれかが一人犠牲になつて海に入り 、
  鱶の餌食にならなければ 、結局は船をひつくり
  返されて 、みんなが残らず食はれてしまふと云
  ふ事になる 。それでさう云ふ災厄に遭つた時は 、
  船に乗つてゐる者が 、船べりから銘銘自分の手
  拭を水中に垂らし 、鱶がその手拭を引つ張つた
  者は 、自分から海に投じて他の者の危難を救は
  なければならぬと云ふ事に昔からきまつてゐる
  のださうであつて 、その時もみんなが手拭を垂
  らしたところが 、鱶は蒲鉾屋の横山の主人の手
  拭を引つ張つた 。
   それで当人は海に入つて鱶に食はれなければな
  らぬ事になつたが 、その時 、横山の主人が 、
  『 わしは岡山の横山だが 』と一言云ふと 、途
  端に船のまはりを取り巻いてゐた鱶が一散に逃
  げてしまつたと云ふのである 。
   備前岡山の横山はその通り有名であつて 、外
  海の鱶でも名前を知つてゐると云ふ事になるの
  であらうと思ふけれど 、それには横山の蒲鉾に
  は鱶をすりつぶして入れてあると云ふ事から 、
  鱶が横山の名前を聞いただけで 、恐れて逃げ出
  したと云ふのであらう 。子供の時に聞いたその
  話をこの頃になつて思ひ出して見ると 、岡山の
  人人の癖で 、その話も横山の悪口ではないのか
  と云ふ気がし出した 。横山横山と云ひはやすけ
  れど 、横山の蒲鉾にだつて鱶がつかつてある 、
  それだから鱶が逃げたのだと云ふ蔭口ではない
  かとも思はれる 。いい蒲鉾には鱶をつかはない
  かどうかさう云ふ点を私は丸で知らないので 、
  これから先は考へる事が出来ない 、また鱶と鮫
  とはどう違ふのかよく知らないが 、どちらも人
  を食ひ 、また蒲鉾の種につかはれるらしいので 、
  鮫の切り身の事からそんな事を気にしてゐたので
  ある 。

  引用おわり 。

  こういう小話 だいすき 。

  かまぼこは 、おととなの ?

 ( ´_ゝ`)

 ( ついでながらの

   筆者註:「 サメ( 鮫 )は 、軟骨魚綱板鰓亜綱に属する
       魚類のうち 、鰓裂が体の側面に開くものの総称 。
       鰓裂が下面に開くエイとは区別される 。2020年
       11月時点で 世界中に 9目36科106属553種が存在
       し 、日本近海には 9目34科64属130種 が認めら
       れている 。 」 

      「  一般的にはサメは『 鮫 』という漢字が使用され
       ますが『 鱶 』という漢字が使われることもあり
       ます 。 
        おもに関東以北では サメ と呼ばれていますが 、
       関西では フカ 、山陰地方では ワニ ( 和邇 ) と呼
       ばれることが多いのだそう 。

       以上ウィキ情報ほか 。

       「 因幡の白兎 」の話には 、ワニ が登場しますが 、

      幼い頃 読み聞かされたとき 、日本の昔話に 、なぜ

      西洋の「 フック船長 ワニ 」が出てくるのか 、

      理解に苦しみました 。確か 白兎が 、慈悲深い大国主命

      に命を救われるお話で 、元々は、白兎が嘘をついて

      ワニたちを渡海に利用したのが 、白兎受難の原因

      で 、嘘ついたり 騙しちゃいけないよ 、という教訓

      話だったような記憶があります 。

 

( 紫陽花(アジサイ)の花言葉は、「移り気」「浮気」「無常」など。
鍾馗空木(ショウキウツギ)の花言葉は 、「謙虚」「古風」「風情」「秘密」など 。)

  ( 和名は ショウキウツギ( 鍾馗空木 )です 。)

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