向田邦子 文春文庫 単行本発売は昭和56年3月
一度向田作品に手を出してしまうと、流れからいってやはりこれも読まずにはいられないわけで。。
ウェブ上にもいろいろな感想が出ているが、個人的には本書巻末に掲げられている、山口瞳氏の解説がかなり的を射ているように思える。
私は、向田邦子が自分の死期を知っていたように思われてならないのである。そんな謎めいた言い方よりも、彼女の人生の結末は実に見事だったといった方がいいかもしれない。『あ・うん』は、彼女にとって畢竟の事業であり、どうしてもかきたいテーマであったに違いない。しかし、彼女には他にも書きたいことがたくさんあった。
(中略)『あ・うん』は、本来、小説家ならば、三年も四年もかけて、じっくり書き込むべき性質のテーマと内容を持った作品である。(中略)じっくりと書き込むべきか、それとも、こういう形で読者と視聴者の前に大きなテーマを性急に叩きつけるべきか。どっちが、この作品にとって良かったのか、私はずっと、わからないままでいる。
「思いでトランプ」は、現代の我々から見るとちょっとしんどく感じられるくらい『濃い』短編集だったが、こちらは一転して薄味なのである。後半に出てくる石川義彦はまだしも、重要な役であるはずのさと子まで、その描写はとてもあっさりしている。ただ、小説全体としてのまとまりは見事なもので、ただその味付けが濃いか薄いか、人々の期待からするとちょっと薄味なんじゃないか、と思える、そんな感じがする。
で、やっぱりこれは映像と一緒に見るとちょうどいいんじゃないか、という平凡な結論になってしまいそうな気がするのである。
NHKアーカイブスにちらっと映像が掲げられているが・・30秒くらいの映像です。けちだねえ。。
別の映像をみていると、杉浦直樹さん、この頃はずいぶん髪の毛があったんだな(^^;。 岸本加世子さんはちらっと出てきますが、とてもかわいいです。
DVD、一応売ってるらしいけど、高いんだよね。
話をいったん戻すと、角倉とたみの微妙な間柄、角倉と仙吉との絶妙な関係、そしてそれを見ているさと子の言葉「大人は本当のことはひとこともいわない」・・。
これに君子と初太郎、禮子をふくめたお互いの距離感、そして昭和初期という、ある種の緊張感を秘めた時代設定。。
この組み合わせは見事としか言いようがない。この設定で描写をどんどん書き込んでいったら、あるいは読み通していくにつれ息苦しくなってくるかも知れませんね。。