富田高至 編者
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 40 十八丁裏 十九丁表 十九丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
39 十八丁裏 十九丁表 十九丁裏
十八丁裏
◯をかしわかき男藝にもならぬ相撲を
十九丁表
とりけり、うれしかる、親にて触とるとおもひて此子を
外にてとらせんとすさよういへ、いまたとらさす独子
なれハあまやかしけれは、とるにいきほひなし、此子
やみあかりなりけれハ、相撲のちからなし、さる間に
相手ハいつくまさりにまさる、俄に親の子をつれて
行、この子、縮緬の褌(タンナ)をして、とだつよし、臨して出て
とりぬ此子なよ/\とよめる、
出てとらハ たれかわれにハ かたさからん
ありしちからも とるハかなしも
とよみてなけられにける親ありてにけるよく
とると思るてこそとらせしか、いとかくもなげゝら
しとおもふに、真実に施入にけれハ、片屋にて願たん
十九丁裏
けり、とるの入相はかりに㝃いりて、又の日のいぬの時
はかりになん、養生していき出たりけるむかしの阿房ハ
さる相撲をなんとりける、今の各ゝまさに仕るんや
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
出てとらハ たれかわれにハ かたからん
ありしちからも とるハかなしも
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
出でていなば 誰か別(れ)の難(かた)からん
ありしにまさる 今日(けふ)はかなしも
独子
〘名〙 「ひとりご(一人子)」の変化した語。