がじゅまるの樹の下で。

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思五郎が行く、再チャレンジで読了

2019年07月21日 | ・和心な本、琉球な本

 

 

『思五郎が行く(上下)』
(与並岳生著/新星出版)

小説『百十踏揚』を書いた世並岳生さんの、
玉城朝薫を題材にした小説です。

 

この本を最初に手に取ったのは
実は9年前。

読み始めたはいいものの、
その時のワタシにはなかなか入りづらく、上巻の前半で挫折。

 

あれから時が経ち、
近世の知識も入って来たし、
組踊300周年のこの機会に
もう一度チャレンジしてみるのもいいかも?
と、図書館で手にしました。

9年前、自分で購入して持っていたものの、
挫折によりいつだったか断捨離してしまい、
もう手元になかったのです。

しかし…やはり琉球史モノは断捨離するべきじゃなかった~(後悔)。

小説としてもさることながら、
与並さんの小説はうんちくが豊富で
(これが時にはつまずきにもなるのですが…(苦笑))
歴史ネタの宝庫、とも言えるのですよね…。

どこまでまた買い直したいですね…。

 

 

さて、この小説は組踊を創ったことで有名な
玉城朝薫が生まれてから死ぬまでを描いた物語。

その過程で、組踊や江戸上りのことはもちろん、
同時代の偉人たち、
尚敬、蔡温、程順則、平敷屋朝敏も登場。
そして薩摩や江戸の大和の著名人や、徐葆光などの清国人も。

今回無事に読了できたのは
主に「現代版組踊 琉球伝信録」をきっかけに、
その時代やできごとをあらたか知っていたから
と言うのも大きいかも。

そうそう、同時代が舞台の小説『黙示録』(池上永一著)も5月に再読してたしね。

 

読む側のワタシに知識のベースができていた。

それがなかったから、
9年前はついて行けなかったのかも

 

今回この『思五郎が行く』を読んでの1番の収穫は
「踊奉行ではない玉城朝薫」が大いに知れたこと。

朝薫と言えば組踊、組踊と言えば朝薫。
「劇聖」とあがめられる琉球の偉大な芸術家。

今日、朝薫はそういう枠でしか語られないし、
そのイメージしかなかったのですが、

彼が踊奉行だったのは人生の中の一時期にすぎず、
むしろそれ以外の役職についていた時期の方が多いこと。

彼は確かに芸能の才能に秀でた芸術家であったけれども、
王府のいち役人、しかも今の大臣にあたる官僚でもあった、ということ。

那覇港の、海中に堆積していた泥をさらうという
一大土木工事の監督責任者でもあったってのはびっくり。

その土木工事の存在自体は知ってただけに、
それが朝薫と繋がってたとは思ってなかったよ。

朝薫の才能・活躍の幅を知り、
目からウロコでした。

 

人物描写としては、
朝薫は多くの人に愛された、優しくて努力家で誠実な人。

蔡温は琉球のためにと振るうその才能と実行力が頼もしいながらも、
その強引さがなかなかのワンマンぶり。
見方によっては策士っぽかったり。

でも蔡温VS朝敏(平敷屋・友寄事件)に関しても
どっちが善(是)か悪(非)かとかではなく、
どちらにもそれぞれの正義や言い分があり、
そしてどちらにも至らない部分、欠点がある。

尚敬王然り。

当時の琉球をとりまく環境、状況、矛盾点、
その上にそれぞれの理想や信念や思惑が絡み合ってて、
理解が深めることができました。

 

現代版組踊 琉球伝信録とかも、
まさにこの話でもあるから
演者さん、関係者さんでまだ読んでない方は
是非読んでみて!
役作りの参考になるかも☆

 


朝薫の墓

 

「手水の縁」のこととかもね。

これは同じ与並さんの代表作、「百十踏揚」に出てくる
「護佐丸と阿麻和利の関係」にあたる部分だと思いますね。

 

もちろんこれは小説なので、
書かれていることすべてが"正しい"わけではなく、
作者の憶測や想像、脚色などもあるのでしょうが、
(朝薫の奥さん、ンタルのこととか、
朝薫の最期とか、そのあたりのこととかキニナル…)
与並さんはそのあたりの史実とフィクションの入れ方がすごく巧妙で、
しかもリアリティがあるから、
どこまでが史実でどこからが脚色なのか、気づかないくらい。

その点、今度はこの小説をベースに、
歴史的な事実を調べて行こう。


「次」につながる、そんな指針をくれた小説でした。


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