人工林における保育作業の中で、下刈りが最も労力とコストがかかる作業と言われています。
そして、木材価格が低迷する中で林業経営の採算性を確保するため、再造林や保育のコストを下げることが重要で、下刈りの省略化という方法が提案され、すでに、導入されている方もいらっしゃるかと思います。
※植物生理の視点に基づく下刈り適期などのお話はコチラ → 下刈り
こうした動きの中で、毎年行う通常の「下刈り」、2年に1回行う「隔年下刈り」、下刈りを行わない「無下刈り」に関する研究も進められています。
なお、隔年下刈りは1年目と3年目に行うパターン、2年目と4年目に行うパターンなど、1回目の下刈りを1年目 or 2年目に行うかによる違いもあります。
伐採後直ちに植栽する一貫作業でなく、これまで通りの方法で行う通常の下刈りに対し、隔年下刈りや無下刈りの違いを簡単に(^_^;)。・・・その前に、言い訳します。全ての論文を読んでいるわけでもないし(恥)、西日本の人間なので西日本の成果に偏っていますので、この点、ご容赦下さいm(_ _)m。
・下刈り回数が減少すると、植栽木の生存率が低下、植栽木の曲がりが多くなる、植栽木の樹高と根元直径の成長が悪くなる、雑草木が高くなることで植栽木が視認しがたくなる。
・隔年下刈りは、雑草木の量が増加し、作業効率が悪くなる。
・無下刈りにより下刈りコストを縮減しても、その後の除伐コストが上がる。
こんな中で作業するわけですから・・・・
現場で働く方にとっては、想像とおりというか、当たり前だろうと思う結果では無いかと思います。
だけど、現場では当たり前の事を科学的に立証されることは、とても大事です。
というのは、現場を知らない方が大半だから(^_^;)。
異業種の方や林業を始められた方は、当然、現場を知らないわけですから、現場の経験だけでなく、それを裏付ける根拠があると言うことは、とても大切です。
さて、個人的に下刈りは遷移をコントロールする作業という風に解釈しています。
植栽後も遷移は進行するので、この遷移を抑制し、植栽木を育てるという風に考えています。
そして、そこに生えている植物が、草本が中心、木本が中心、草本&木本が中心、草本と藤本が中心なのかによって、遷移の進行や植栽木への影響も異なります。
例えば、ススキなど草本が中心の場合。
一度、刈り払うことで、草本類の成長がリセットされます。
リセットされたことで、草本類の成長に遅れが生じ、その間、植栽木はすくすくと成長できます。
一方、草本類を刈らなければ、リセットされず、そのまま成長します。
この時、植栽木の成長に影響がなければ、下刈りを省略してもいいかも。
草本にアカメガシワやカラスザンショウなどのパイオニア(先駆性樹種)など木本が加わった植栽地の場合・・・
下刈りによって、成長がリセットされ、植栽木はすくすくと成長します。
刈られた草やパイオニアが復活するけど、植栽木との成長に差が生まれます。
もし、下刈りをしなかったら・・・・
特にパイオニアは、伐採跡地などに真っ先に生え、成長が早いという特徴があるので、1年放置すると、あっという間に大きく成長するし、再生能力も高いです。
ただし、パイオニアは、光がガンガンあたる環境を好むので、植栽木が早く成長し、日陰が出来るとパイオニアの勢いも低下するので、その時を迎えたら、下刈り回数を減らしたり、下刈りをやめるという選択肢も出てくるかもしれません。
だけど、植栽木の成長に影響がないからと言って、パイオニアやそれ以外の樹種を残してしまうと、除伐のコストがかかる、という事になるかも(^_^;)。
シイノキとか残すと、後々、やっかいになると思うな・・・。
遷移の進行が遅い場所では、下刈り回数が減少しても影響は小さいだろうし、遷移の進行が早い場所では下刈り回数が減少すると影響は大きいと思います。
あくまで、下刈りに限った話であって、その後の除伐や保育間伐への影響が出ることがあるかもしれない・・・。
ちょっと雑な説明で申し訳ございませんが、研究成果の中にも、
・植栽後、1年目と2年目の下刈りは重要である。
→ただし、皆伐直後か否かなど条件や地域性によって、1年目を省略出来るという成果もある。
・植栽後3年間、下刈りを省略することは、成長を阻害し、形質にも影響を与えた。
→ 植栽直後の植栽木は小さいので、雑草木の被圧を受けやすいから。
とあるように、下刈りによって、雑草木の成長を一度リセットすることで、植栽木を遷移の中で有利な立場にさせられることだと思います。
ただし、皆伐から年数が経過すればするほど、遷移が進行していることになるので、その時点で下刈りの省略が可能か否かの境目になると思います。
という風に考えると、毎年下刈り or 隔年下刈り or 無下刈りという選択ではなく、植栽地における雑草木の繁茂状況を観察しながら、今年は下刈りをする or しないという選択であるべきではないかと思います。
そのように指摘する研究報告もありますし、江戸時代に書かれた書物の中にも、植栽地の状況を見ながら下刈りを行うという旨が書かれているので、現場を見て判断することは、当たり前のことだと思います。
現場を見た結果「今年は下刈り、いらないな」という選択が5年続いた、その結果が無下刈りであって、最初から無下刈りという選択肢はあり得ないと、個人的には思うんですが・・・
そうした観察もなく、単に保育コストを縮減するために「隔年下刈り」を机上で採用・推進するのもどうなのかな?と疑問を感じます。
そして、保育コストを縮減することを目的とした隔年下刈りは、労働安全上にも影響を与えます。
先述した中で「隔年下刈りは、雑草木の量が増加し、作業効率が悪くなる。」とあります。
作業効率が悪いと言うことは、通常の下刈りと比較する「作業環境の悪化」と「危険因子の増加」という可能性が潜んでいます。
「作業環境が良くなり、危険因子も少なくなったけど、作業効率が悪くなった。」なんてことは、一般的には考えられません。
作業効率の悪化という結果の裏には、実際に作業した者にしか分からない、作業環境の悪化と危険因子が潜んでいるかもしれません。
植栽木が見えにくい環境で、植栽木を探しながら下刈りしないといけない。
それだけではなく、昔の切株が見えにくい、浮石や残置木が見えにくい、キックバックの要因になるかもしれない岩石が見えにくい・・・ということは、危険因子の発見が遅れるということなります。
というか、2年間下刈りしていない雑草木が繁茂した場所で下刈りなんて、一般的には、したいと思わないでしょう・・・良好な作業環境ではないのですから・・・
保育コスト縮減のため、下刈り回数を減少する場合は、植栽地に繁茂する雑草木の状況や種類から遷移の進行を予測し、下刈りしないことによる影響の有無を検討することが重要だと思います。
そして、当年は下刈りしないことで、翌年の下刈りで作業員の負担や安全上のリスクが増えないかの検討も重要だと思います。
「コスト縮減のため、下刈り回数を減らそう」と安易に進めるべきでは無いと思います。
ちなみに、刈払機で灌木を切る場合、切断部分の直径が8cm(チップソーの場合は6cm)程度までです。
もし、根元直径8cmの以上の灌木を刈払機で切って、ケガしたら、労基署に指摘されるでしょう。
万が一、隔年下刈りをしようとする場所に、8cm以上の灌木が生えていたら、安全指導上、その灌木はチェーンソーや手鋸で切らないといけないことになります。
意地悪なことを言えば、国有林や行政が発注する事業で、隔年下刈りが発注されたら、事前に調査しているのか、明記されているのか、設計にチェーンソー使用が含まれているのか、確認したいところです(^_^;)。
森林整備は、森林の中で働く人たちの環境整備であると考えています。
コスト縮減も大切ですが、山の中で働く人の方が大切です。
3年間、下刈りしなかったら、こうなった・・・
やっぱり、今年から下刈りしよう!
なんて、安易な発想は、ここで働く人たちにリスクを背負わすことになる・・・。
そういう意味で、一貫作業は重要なポイントになります。
ということは、皆伐を行う業者との連携が重要になるし、植栽を前提とした伐採と搬出を行う技術の確立も必要・・・だと思います。