胚や根以外の部分から発生した根を「不定根(ふていこん)」といいます。
もう少し丁寧にいうと、幼胚から発生した主根や側根、根から発生する細根ではなく、植物の茎や幹、枝、葉など他の器官から分化した根を不定根といい、機能的には、通常の根と同じ働きをしています。
不定根の「不定」は、種子などの定位置でない場所から出た根という意味です。
林業の現場で、よく見かける代表的な「不定根」と言えば、スギの幹から発生している「気根」ではないでしょうか。
このように、幹から発生した気根も不定根で、挿し木で発生する根も不定根です。
ちなみに、下の写真のように、倒木と幹が接触して、幹から発生した気根が、そのまま根になることもあります。
もちろん、この根も「不定根」です。
幹などが傷ついた部分、材が腐朽した部分、虫に穿孔された部分などに適度な湿気が加わると、不定根が発生する場合が多いです。
不定根を観察したい場合は、林業だとスギ、街中や公園だとソメイヨシノが見つけやすいです。
ソメイヨシノは、幹が腐朽した箇所に不定根が発生し、腐朽した部分の中に不定根が広がる姿をよく見かけます。
不定根は、乾燥に弱いので、そのほとんどが枯れてしまいます。
上の写真のように腐朽した部分は、一定の湿度があるため、発生した不定根がそのまま伸びることがあります。
逆に、幹の材部を食べ散らかすカミキリムシが空けた大きな孔は、乾燥しやすい傾向にあるので、不定根の姿は、あまり見られません。
枯れることなく伸びつづける不定根が地中に到達すると、細根を発生させ、不定根そのものが肥大成長していきます。
そして、養分を供給するようになり、衰弱した根の代用にもなるため、樹木の治療の1つとして、不定根を地面まで誘導し、樹勢を回復させるという方法もあります。
この写真は、不定根を誘導させた治療の一例です。
不定根は、むき出しの状態で発生することが多いため、不定根が乾燥で枯れないよう配慮しながら、虫による穿孔にも注意し、地面へと不定根を誘導します。
不定根が多数発生している場合は、その中から最も勢いのある不定根を選別し、地面に誘導させる不定根を絞り込む必要があります。
スギやソメイヨシノのように、不定根が出やすい樹木は、挿し木の発根率が高い傾向にあるように思います。
データや科学的根拠はないのですが、スギとヒノキでは、スギの方が挿し木がしやすく、ヒノキで不定根を観察できることはほとんどありません。
不定根が良く発生するソメイヨシノは、挿し木が容易ですが、不定根をあまり見ないヤマザクラの挿し木は、成功率が低いです。
不定根が発生しやすいか否か、その樹種の特性に応じて、挿し木の成功率も関係しているのではないでしょうか。
関係なさそうに思える「挿し木」と「不定根」を結び付けて観察する。
これも樹木観察の一興だと思います。
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