前回、天然更新施業の流れについて、簡単にサラッとご紹介しました。
今回は、天然更新の施業の中でも重要な「下刈り」や「地掻き」といった更新補助作業について、少し詳しく説明したいと思います。
天然更新は、種子の供給源となる「母樹(ぼじゅ)」や後生稚樹(伐採後に定着する稚樹)となる「埋土種子(まいどしゅし)」、あと前生稚樹(伐採前から定着している稚樹)の存在がとても重要です。
しかし、母樹や埋土種子が豊富に存在していても、それぞれの樹種によって発芽条件や生存条件が異なります。
なので、伐採林分を発芽などの条件に適した環境に整える作業が必要となり、その作業が「下刈り」や「地掻き」になります。
2つ前の記事でご紹介した天然更新対象樹種の類型である「カンバ型」、「ブナ型」、「シラベ・コメツガ型」に分けて、下刈りなどの必要性について、お話したいと思います。
「カンバ型」の場合
カンバ型は耐陰性が低く、明るい光がよく当たる環境で速く成長する樹種(早生樹)が含まれます。
なので、母樹を残し、稚樹が定着できる明るい環境を整える必要があります。
種子は軽く、風によって広く散布(風散布)するタイプの種子です。
そのため、種子は小さく、芽生えも小さいので、発芽場所の条件が、発芽後の生存と成長に大きな影響を与えます。
なお、カンバ型は「側方天然下種更新」なので、伐採林分に隣接する場所、または伐採林分内に母樹を残す必要があります。
土壌が露出した部分では、種子の定着と成長が良く、草本・低木類・ササが密生するところでは、定着し難いため、伐採の際には、ある程度、土壌を露出させる必要があります。
←草本などの覆われたり、枝条が積みあがった場所では発芽しにくい。
種子の結実時期は、樹種によって異なりますが、ほとんどは秋季に結実し、種子が散布されるので、下刈りなどの更新補助作業は、8月までに完了させる必要があります。
その後の成長を良くするためには、草本やササなどの繁茂具合で下刈り作業を行う必要も出てきます。
「ブナ型」の場合
ブナ型の稚樹は、カンバ型よりも耐陰性が高いので、暗い環境の林内でも稚樹は存在していますが、稚樹の成長にはある程度の光が必要となるため、林冠を疎開し、林床が明るい環境を整える必要があります。
伐採前の暗い林分でも稚樹は存在するものの、その稚樹の密度は低く、更新としては不十分なので、後生稚樹の発生を期待することになります。
なので、母樹を残し、後生稚樹の定着と成長&前生稚樹の成長が促進できる林床が明るい環境を整える必要があります。
→
種子は重く、地面に落ちて斜面を転がるように種子を散布(重力散布)する、またはリスなど動物によって散布(動物散布)するタイプの種子なので、広い範囲で種子を散布することができません。
そのため、カンバ型よりも多く母樹を残す必要があり、「上方天然下種更新」なので、伐採林分内に母樹を残す必要があります。
ちなみに、伐採林分に隣接する場所に母樹を残しても、種子の散布範囲は狭い(樹冠の端から5mくらい)ので、天然更新は進みません・・・。
ブナ型の種子は、発芽に必要な栄養分が含まれているので、カンバ型のように地掻きまで行う必要はないかと思います。
コナラやクヌギなど成長の早い樹種の場合、下刈りが省略できる場合もあるので、樹種の成長速度と草本・低木類・ササなどの繁茂状況を見ながら、下刈りの有無を判断する必要があるかと思います。
ブナ林の場合、林床がササという場合がほとんどです。
そして、ササの密生はブナ更新の阻害要因となります。
ブナ林の天然更新は、「択伐で林床を適度に明るくする」、「母樹を多く残し、種子を散布させる」、「下刈りなどでササの繁茂を抑制する」という点が重要とされています。
「シラベ・コメツガ型」の場合
大概の針葉樹は(アカマツなどの陽樹は違います。)は、この部類に当てはまります。
耐陰性が高いので、発芽の生存率も高く、数十年間も生存している稚樹もあるため、前生稚樹が豊富に存在します。
伐採で林床を明るくすることで、徐々に成長し、更新することが可能となります。
ちなみ、前生稚樹の密度は、土壌条件の影響を受ける林床植物と密接な関係があるとされています。
針葉樹を天然更新したい場合、伐採面積を小さくし、前生稚樹に適度な光が当たるような環境を整える必要があります。
大面積で伐採すると乾燥で前生稚樹が枯死したり、カンバ型の樹種が侵入したりすることもあります。
→皆伐すると前生稚樹が枯死することも。
なので、伐採方法は帯状伐採、小面積皆伐、単木的択伐が適切で、多くの前生稚樹を残し、成長を促す必要があります。
天然更新対象樹種の類型が「カンバ」・「ブナ」・「シラベ・コメツガ」となっている時点でお気づきだと思いますが、「これって、冷温帯や亜高山帯といった東北地方~北海道の森林のことじゃないの?」と疑問に思う方がほとんどだと思います。
おそらく天然更新が実現できたのも東北や北海道で、また、それに関する研究や事例も東北や北海道が中心だったからではないかと思います。
しかし、暖温帯や常緑樹林であっても、基本的な考え方は変わりません。
温暖な地域の森林であっても、「カンバ型」に当てはまる樹種(アカマツ、ノグルミなど)、「ブナ型」に当てはまる樹種(シイ、カシなど)「シラベ・コメツガ型」に当てはまる樹種(ヒノキ、ツガなど)はあります。
当然ですが、どの樹種がどの類型に当てはまるのかという判断は、スギやヒノキを扱ってきた分野とは異なる専門的な知識が必要になってきます。
天然更新は伐採後、そのままにしておけば成立する・・・というものではありません。
一番手間がかからず、低コストというイメージを持たれている方もいますが、実際は、母樹の残し方、伐採方法や伐採率、伐採後の状況に応じた施業方針など、植栽よりもコスト増ということも十分に考えられます。
天然更新によって、どのように森林を作り上げていくのか。
木材生産を目的とするのか。
特用林産物の生産を目的とするのか。
景観を目的とするのか。
広葉樹林化など樹種転換を目的とするのか。
目的によって、伐採方法も検討しないといけません。
そして、単に行政が定める天然更新完了基準を満たすことが目的であったとしても同様です。
定められた期間内に、定められた密度と樹高を満たすには、「カンバ型」「側方天然下種更新」「先駆性樹種(パイオニア)」が一番効果的だと思われます。
しかし、すべての伐採林分が「カンバ型」「側方天然下種更新」が可能で、「先駆性樹種」が存在しているわけではありません。
種子の供給源となる母樹は存在するのか。
先駆性樹種となる埋土種子は存在するのか。
それを事前に把握することも重要です。
結果的に天然更新が一番コスト高という可能性もあります。(実際は、天然更新が手を抜きやすいという悪魔の囁きがあると思いますが。)
個人的に、「コストをかけるほど天然更新の成林率は上がる」と思っています。
が、目的や見据えるゴール地点によって、異なるので一概には言えません・・・
でも、スギやヒノキの人工林を・・・「広葉樹林化する」、「針広混交林にする」場合は、かなりコストをかけないと成立しないと思っています(ん~コストをかけても成立しないかもしれませんが・・・)。
と、話がズレてきたので、この話はまた次回・・・別の機会に・・・。
一応、図を取り入れて、下刈りや地掻きが天然更新に必要な施業であることを、分かりやすく説明したつもりです・・・・が、
逆にややこしかったら・・・・これが自分の限界なので、ホント、申し訳ございません。ご容赦下さい・・・。
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