林業における保育施業の1つ「つる切り」。
その名の通り、植えた木に絡むつるを切って、除去する作業です。
つる切りをしないと、植えた木が、かわいそうな姿になってしまいます・・・。
つるに激しく巻きつかれた無残なヒノキ。
つるに巻き付かれた箇所が膨れたスギ。
膨れた部分から腐朽菌が蔓延し、そこから幹がポキッと折れてしまいます。
伐採作業中に、ポキッて折れて、頭に落ちてくる可能性も十分にありますよね・・・・。
つる切りの目的は、
①植栽木を健全に成長させる。
②植栽木の幹折れや幹曲がりを防ぐ。
③植栽木への巻きつきや被圧を防ぐ。
つる類は、樹冠を伝って広がるため、放置すれば辺り一面、被害を受けてしまいます。
クズなんて、放置したら、えげつないことになりますよね・・・・(>_<)
※耕作放棄地に繁茂したクズ・・・
つるは、木に巻き付くので、自立に必要な幹は不要です。
そのため、幹を維持するエネルギーが不要になる分を成長に使うことが出来るため、1年間で数m~20mという、とんでもない早さで成長することができます。
さらに、根茎に貯蔵養分を持ち、再生力も強いから、タチが悪い・・・(^_^;)
つるは、その生態によって、3つのタイプに分かれます。
その1、幹に張り付くタイプのツル。
テイカカズラ、ツタウルシ、イワガラミなどがこのタイプ。
幹の表面に根を吸着させるため、幹に絡みつかないので、材質に大きな影響を与えることは少ないです。
40年生、50年生と大きく成長した木の幹に張り付き、明るい場所を好むので、林縁部や森林の開けた隙間などに発生しやすいです。
その2は、巻きひげで木に絡みつくタイプ。
このタイプは、サルトリイバラ、サンカクヅル、ヤマブドウなど。
ピロ~ンって、伸びているのが巻きひげ。
この巻きひげが届く高さに枝があれば、絡みつきます。
基本的に、下刈りで処理できますが、このタイプのつるが多い造林地では、6~8年生まで下刈りをした方がいい場合もあります。
放置しておくと、枝に絡んで、こんなになってしまうおそれも・・・
その3、幹に絡みつくタイプのつる。
これがつる切りの対象となるつるです。
フジ、アケビ、クズなどがこのタイプ。
さっきお見せしたコレです・・・
このタイプのツルは、木の幹が細くないと巻き付けません。
なので、下刈りが不要になっても、つるが巻き付けるサイズの幹だったら、つる切りを続ける必要があります
下刈りが終わっても、つる切りが必要になる理由はここにあります。
30年生以上の人工林の林縁部で、林床を這う様につるを伸ばすフジなどを見たことがありませんか?
これは、巻き付けるサイズの幹が無いので、木に巻き付くことが出来ず、地面の上を這っているんです。
なので、「つるかご」を編む材料のつるを探すときは、30年生以上の人工林で、林床まで光が差し込む林縁部を探索すると、クセの無い、編みやすいつるを手に入れることが出来ます。
つる切りを行う時期は6~7月で、この時期が、根茎に蓄積された養分が少ない時期となります。
そもそも、つるは根茎に貯蔵養分を持つため再生力が強く、根絶が難しい・・・
だけど、つるに養分を貯蓄させない、もたせない、切り崩すためには、蓄積された養分が少ない夏(6~7月)につる切りを行い、大きなダメージを与えてやる必要があります。
ちなみに、
主伐で伐採する前につるを切って、薬剤を散布し、根茎ごと駆除するという方法。
地拵えの時に根茎に薬剤を散布し、根絶するという方法。もあります。
これは書いていいのか、悩ましいんですが・・・・(>_<)
僕が駆け出しの頃、クズが多い造林地だったので、現場の方と一緒につる切りに行きました。
手鎌でクズを刈って、根茎を掘り出し、そこに冬に残った灯油をかけて、根茎を枯らしました。。。
あの頃は、何も考えず、廃油の有効利用だな~・・・なんて、お気楽なこと考えてましたが、今思うと、ダメじゃん(-_-;)。
そして、最も重要なこと。
つる切りのもう1つの目的があります。
それは、「保育間伐を行う作業員の作業環境を整える」ことです。
僕は、つる切りの1番の目的は、コレだと思っています。
つる切りをしないと、安全に伐倒できない「つる絡み」という危険因子を生み出します。
林業の死亡災害の6割が伐倒・伐採に関する作業で、この中に掛かり木処理も含まれます。
そして、掛かり木同様、危険なものが「つる絡み」。
伐った後の木の動きが読みにくい。
そのまま宙づりになるのか、それとも落ちてくるのか、またはブランコの様に戻ってくるのか。
戻ってくる途中で木が飛んでくるかもしれないし、ブランコの様に向こうへ行った瞬間に先端が自分に向かって落ちてくるかもしれないなど、様々なパターンが想定されます。
つる絡みの木を伐ろうとした結果、木の下敷きになって亡くなった方もいるし、大けがになった方もいます。
僕が国有林に勤めていた頃、間伐の計画エリアを踏査する際、可能な限り、つるを除去しました。
国有林だと、事業着手まで1年、もしくは2年の期間ができる場合があるので、踏査の時点で、つるの根元を切っておけば、事業着手の頃には、枯れて、つる絡みが起こりにくくなるからです。
必ずしも安全とは言えませんが、つるが生きたままの状態よりは安全です。
枯れていれば、伐倒する前に、枯れたつるを引っ張って、つる絡みを解消できる可能性もあるので。
ちなみに、そこからつるが再生し、再び、木に巻き付くことはありません。
仮に再生したとしても、保育間伐が必要な林分なら、林内が暗いので光り不足で、やがてつるは枯れるし、木自体も巻き付けるサイズではありません。
保育間伐で人工林に入ったとき、つるが絡んでいる木を見たら、間伐したくなる気持ちになると思います。
だけど、自分の身を危険にさらしてまで、伐採しないとダメなんですか?
そこまで、大事な仕事ですか?
僕は、現場で働く人の命や体の方が大切だと思います。
だから、保育間伐でつる絡みの木があっても、無理をせず、つるだけ切って、次の間伐に回してもイイと思います。
下刈りでハチの巣があったら、その周囲の下刈りは避けると同じ理由です。
だから、つる切りの一番の目的は「保育間伐を行う作業員の作業環境を整える」こと。
その次に、植栽木の健全な成長などなどです。
造林コスト、保育コストの縮減は大切です。
しかし、その結果、現場で働く作業員達の安全面が低下し、大きな事故になっては、コスト縮減の意味がありません。
木を育てること、森を育てることは大切ですが、それ以上に、そこで働く作業員の命の方が大切です。
そう考えると、つる切りという施業の意味が大きいなーと僕は思います。
以上、つる切りのお話でした。
つる切りに関しては、動画「森の知識はぐくMOVIE」でも解説しているので、よろしければ、こちらもどうぞ!
森の知識はぐくMOVIE「つる切り」