下北沢の深夜の居酒屋。
僕たちと並びのカウンター席に男女の客がいた。
おそらく2人とも三十代。
男は金髪に近い髪をしていた。
かなり酔っているようで、聞くつもりはなくても、その会話が聞こえてくる。
女は整体だかカイロプラティックだかを職業しているらしく、
男にその効果をしきりに訴えていた。
そのうち、実際にやってみせようという話になったのだろう。
「ホントだ。右と左で全然違う」
「でしょ」
女が男の骨だかリンパだかは何かして、
顔の片側だけをリフトアップさせたようだ。
しばらくすると、調子に乗った女が、さらに大胆に施術を始めた。
男の座る向きを変えさせ、自分も立ち上がり、男の体を押したり捻ったりしている。
その途中の会話で、
男は彼女と別れて今は特定の相手がおらず、
そして女の方はどうやらその男を憎からず思っていることがわかってきた。
実は今、女が押しているのが性欲亢進のツボだったら・・・。
などと妄想してしまったのだが、僕たちの方が先に店を出てしまったので、
残念ながらあの後、2人がどうなったかわからない。