福岡市 勝木 千賀子 主婦 70歳 朝日新聞 2011年9月9日 「ひととき」
お寺からの帰り、いつものようにバスに乗った。ところが乗り換え停留所の直前にバスは右折して都市高速道路に入るではないか。
「えっ、どうして?このバス、どこ行き?」。心はうろたえまくったが、すまし顔で車窓を流れる博多湾を眺めていた。都市高を降りた停留所でそそくさと下車して行き先表示を確認すると、「福岡タワー ヤフードーム」。反対方向だ。どうして間違えたか、どんなに考えてもわからない。
友達に話すと、「これは序の口。これからは失敗が増えることはあっても減ることはないから覚悟しておきなさい」と脅された。そうだよね。友達と旅行に行くといつもだれかが何かを探しているし、会えばそれぞれの失敗話で盛り上がる。悔しいけれど、受け入れざるを得ない。
年上の友達は「せっかくタワー行きに乗ったのに、何でタワー見物して来ないのよ」と笑った。そう。失敗したら、慌てず騒がず、開き直って楽しめばいいのだ。今回だって普段行かない所への雨の日のドライブだと思えば心も軽くなる。
能力は衰えても私たちには積み重ねてきた経験と知恵と度胸がある。これからの人生も結構面白いかも。
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気持ちの持ち方、経験と知恵と度胸とは残っている。たしかに。