田中 博臣(56) 朝日新聞 2011年9月17日 ダンカジ日記
私が家の中のことをするようになったのは、父親の影響が大きい。父は大学時代に亡くなったが、子供の頃は、学習机や犬小屋をいとも簡単そうに作ってくれ、自転車のパンクの修理方法や包丁の研ぎ方、のこぎりやかんななど工具の使い方も教えてくれた。自分で魚をさばいたり料理を作ったりもしていた。大正生まれでは、珍しかったかもしれない。
高校時代に、裾の広がった「ラッパズボン」がはやったことがある。だが、母親は「そんなものは不良がはくもんだ」と言い、買ってくれなかった。ならばと、見よう見まねで、家にあったミシンでズボンの裾を広げた。今やミシンは、我が家ではほとんど筆者専用である。
筆者は昭和30年生まれ。中学から高校までの自分の成長期と、日本の高度経済成長期がぴったり重なる。大きくなるに連れて、いろいろな電気製品が家のなかに登場した。だが、今のように安くなかったため、「家の中の物は、壊れたら修理する」と言うのが基本だった。母親が洋裁をしていたこともあり、よそ行きの子供服は基本的に手作りだった。
今では、大学卒の初任給で生活用品一式が買える。だが今後、子供たちが家庭をつくる頃は、少子化などで経済成長は望みにくいだろう。両親から引き継いだ「もったいない」という価値観や親としての考えを伝えていくのも、家事の一つだと思う。(ミサワホーム取締役)
---