熊澤良尊の将棋駒三昧

生涯2冊目の本「駒と歩む」。ペンクラブ大賞受賞。
送料込み5000円。
残部僅少ながら、注文受付中。

目次

作品 文章 写真 販売品

守幸、パートⅡ

2016-11-03 19:16:27 | 文章
11月3日。
朝の続きです。

300年ほど前の文字の漆がすり減った古い駒の「守幸」。
貴重なものだからと、持ち主のMさんに申し上げていたのですが、消えかかっていたところに、ご自分で墨を入れて使っておられたのです。
小生は返す言葉を失くしました。
とにかく、もう一度拝見したいと言うことで、持参願いました。
実は、最初の時から、この駒を譲っていただけないものかと思っていたのですが、言い出せずに居りました。

見れば「ありゃりゃ・・」。
と言うことで、Mさんに提案しました。
「守幸の駒と、私が作ったこの彫り埋め駒(この時の書体は覚えておりません)と、交換してもらえませんか」。
  「ああそれは、願ってもないことです」。


と言うことで、取り替えることになり、早速、Mさんが書きこんだ文字を消そうと試みました。
水を含ませた布でごしごし。
これを繰り返しました。

幾分は薄くはなりましたが、どうしても元通りにはなりません。
その現在の映像。

表側の漆文字は、大体残ってはいるのですが、裏はすり減っています。
中央の銀将。その左が銀将の裏。
完全にすり減っていますね。

最初に見た時は、すり減って消えた議員将の裏の文字が、良く見れば白く日焼けせずに文字の形が確認することが出来ていたのです。
それが墨で・・、その墨を落としても、白い文字の痕跡も失せてしまいました。

一方、30年ほど前に復元した小生作の「守幸」。
その映像。

その二つの玉将・王将を並べてみました。


ーーーー
守幸の駒には、もう一つの後日談があります。
丁度そんな時、将棋博物館の顧問を仰せつかっておりました。
ある時、
将棋博物館で、大橋家の古文書に眼を通していると、「家宝什物之目録」とある書きつけを見つけました。
そこには、大橋家に伝わる駒が5~6行記されておりました。

例えば、
一、水無瀬殿筆跡の駒
一、お城将棋の駒
などとですが、四行目だったか五行目だったかに、
一、守幸筆の駒
とあるのをを見つけ、ビックリしました。

大橋家伝承の駒の幾つかは、昭和15年に、木村名人が譲り受けておられます。
しかしその中に「守幸の駒」は、ありません。
どこかの時代に、既に失せてしまいました。
そのことは、ず-っと気に留めているのですが、若し、現存しておればこのような駒だったであろうと思う次第。

もうひとこと。
「清定」の文字に似ていますね。
現在、巷で伝わる「清定」の文字は、レタリングされた文字。
対して、「守幸」は、肉筆。
両者は一見、良く似ていますが、文字としての本質には、この違いがあるように思っています。
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守幸の駒

2016-11-03 05:59:03 | 文章
11月3日(水)晴れ。

文化の日。
世間ではお休み。
当方は、至って普通の日。

ーーーー
只今製作中の「守幸」。
最初に出会ったのは、30年くらい前。
大阪のMさんが「名古屋大須の骨董市で見つけた」と、古い駒を持って来られました。

見れば、玉将と金将のほかは、文字の漆がかなり失せかけたかなり肉厚な古い書き駒でした。
江戸時代以前は、駒木地に直接漆で文字を書いた駒。
彫り駒とか盛り上げ駒は、比較的新しい時代の駒なんですね。

飛車角の裏は、かろうじて上方の1ミリか1ミリ半ほど漆の黒が残っていました。
香車の裏は消えかけながら、黒漆がうっすらと残っており、使う頻度が少なかったことが分かります。
最も消耗が激しいのは、銀将の裏で、漆文字は全く残ってはおりません。
昔も今も、銀将の使用頻度が一番多かった。
そのことを示しています。
玉将の尻には漆で「守幸」と花押。

で、「消えかけている文字を、漆で書き直してほしい」とMさん。
「これは300年ぐらい前の江戸時代中期の駒です。大変貴重な古いものですから私が変に触るより、これはこのままにしておいて、駒の形・文字とも同じようなものを作りますから、それを使われたらどうですか」。
幸い、消えている漆の文字の痕は日焼けせずに白く残っていて、これから文字の復元は可能です。

古い駒は、しばらくお預かりして、盛り上げでそっくりなものを作ることになりました。
と言うことで、この時、三組を製作。
元の駒は、Mさんにお返しし、新しい一組はMさんに買っていただきました。

それから10年ほどが経ったある時です。
「Mさん、あの駒の写真が撮りたいので拝借出来ないでしょうか」。
   「イイですよ。しかし、あの駒はあれから私が墨で文字を書いて使っています。それでもいいですか」。
「へッ、消えた文字をですか。私が作った駒はどうされたのですか」。
   「あれは使わずに、大切にしまってあります」。
「それは逆でしょう。大切なのは古い駒の方。とにかくもう一度拝借したいので・・」。

この話の続きは、また明日にでも。




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駒の写真集

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