なにか急にてんぷらが食べたくなって
二つ先の町まで車を飛ばしたが
あいにくの定休日。
仕方なく中華屋さんにしようとUターンしたが
ここもお休み・・・・・
結局はとんかつを食べることになった。
もう随分昔のことになるが
大学入学の祝いにと
目黒のとある借間で女がとんかつを揚げてくれた。
衣をはがして肉だけ食べる偏食青年に
「一緒に食べなさい」 と母親のようなしぐさ。
はじめて見るレタスに困惑していると
「美味しいから食べてごらん」 と姉さんのようなことば。
東京の夜は仄々とゆたかな匂いがして
新しい生活への不安はいっぺんに消えうせた。
そのときの女というのが今、テレビの前でまどろんでいる。
とんかつの歌
とんかつにしようか
あの日のとんかつに
ふたりぽっちの夏だから
とんとん とんかつ とんころりん
とんとん とんかつ 夢ん中