うれしいことは重なるものらしく
一通の手紙が舞い込み
詩集『よぶり火』の中の一編「海月」に曲をつけて
演奏したいという。
手紙の主は東京芸大音楽学部の学生で
来月、大学にて発表する予定とのこと。
あのような暗い内容の詩に
どうして若い人が興味をもったのか不思議だが
あとで音源と楽譜を送ってくれるという。
日本歌曲コンクールにつづき
なんだかこの頃楽しくなってきた。
秋の日の ヴィオロンのため息の 身にしみて
ひたぶるにうら悲し かねの音にむねふたぎ
いろかえて涙ぐむ すぎし日の思い出や・・・・・・
上田敏訳「海潮音」より
ヴェルレーヌのような悩める友人が梨を提げて訪ねてきた。
ひとり息子は役者になってしまったので
夫婦ふたりで暮らしている。
文学青年と文学少女が出会って一緒になったふたり、
今もその雰囲気を引きずりながら懸命に生きている。
ぼくは梨が好き、
食べるよりも触れていてそのたなごころがいい。
三つの梨、しばらくは視つめていよう。
さりさりと寂しき音や梨を食む