顎鬚仙人残日録

日残りて昏るるに未だ遠し…

歴史を語り技術を伝える…一橋徳川家の美術工芸品

2024年10月17日 | 水戸の観光

いつもは9月末頃から咲き始める庭のキンモクセイ(金木犀)がやっと咲きだしました。秋の気温が高いほど開花時期が遅くなるそうですが、やっと咲いた黄金色の花に因んで、金箔をふんだんに使った美術工芸品のご紹介です。

茨城県立歴史館には、一橋徳川家の12代当主徳川宗敬氏から寄贈された総数約6,000点の美術工芸品や文書、記録類を収蔵した「一橋徳川家記念室」が併設されています。



一橋家は水戸との縁が深く、一橋家9代の慶喜は水戸藩9代徳川斉昭の7男で後に15代将軍になっています。12代当主の一橋宗敬は水戸徳川家12代徳川篤敬の次男で徳川慶喜は大叔父にあたります。宗敬夫人は慶喜の5男で鳥取池田家の池田仲博の長女幹子で、宗敬が養子縁組をした一橋家11代当主徳川達道の夫人は慶喜の三女、鐵子という深い関係があります。

寄贈された資料は歴史的、美術工芸的にも第一級の価値があり、特に一橋家のまとまった歴史資料として戦火や災害にもあわず伝えられてきたことでさらにその価値を高めています。
一橋宗敬はまた、養父の一橋家11代達道が収集した江戸時代の写本、版本約5万冊を昭和18年(1943)に東京国立博物館にも寄贈しています。


個人所有だったお宝を国のお宝にした英断のおかげで、歴史を語り技術を伝える貴重な資料が学術的研究に役立ち、我々市民もその一端を目にすることができるようになりました。



茨城県立歴史館ではこの莫大な資料の中からテーマ別に展示を行い、9月29日まで一橋家に伝わる「漆工と木竹工の品」展が開催されました。多くが国指定の重要文化財に指定されている、そのほんの一部をご紹介いたします。



朱漆福寿字蒔絵 盃 国指定重要文化財
「福寿」の文字を金、銀の薄肉高蒔絵ですべて異なる字体で入れています。宝暦10年(1760)初代宗尹が兄の9代将軍家重から拝領しました。


叢梨子地葵紋散蒔絵 膳部  国指定重要文化財
一式のうち御膳、瓶子、盃、燗鍋、湯桶…葵紋の蒔絵が散らされています。


叢梨子地梅唐草葵紋散蒔絵 盥 湯桶  国指定重要文化財
叢梨子地に梅と葵紋、唐草に唐花を蒔絵で施しています。誰の所用品かは不明です。


叢梨子浮線菱唐草葵紋散蒔絵 脇息  国指定重要文化財
5世斉位の正室永姫(賢子)の婚礼調度品、座って脇に置きひじをかけてもたれかかる道具です


濃梨子地浮線菱唐草葵紋散蒔絵 香道具  国指定重要文化財
火屋の付いた火取香炉に香壺二つと焚殻入れ、火箸と香盆…香道を楽しむ道具一式です。


叢梨子地葵紋散蒔絵 提重 国指定重要文化財
酒肴などを入れる重箱(4段)にお盆、銀の銚子(瓶子)2本、盃入れが付いた屋外レジャーの携帯重箱セットです。


櫛雛形  39点のうち一部 国指定重要文化財
目の粗いものから細かなものへと揃えられています。江戸時代の職人の技術の高さに驚かされる櫛目の細かさです。


金地彩絵松鶴、杜若図中啓  国指定重要文化財
地紙に金箔を押し、舞い降りる五羽の鶴(右)や杜若(左)が描かれています。右の松鶴図は7代慶寿が天保13年(1842)に江戸城本丸中奥で舞うために新調した中啓(能楽や狂言などの古典芸能や僧侶が儀式の際に用いる扇子)です。


叢梨子地花車蒔絵(右) 長文箱  黒漆若松舞鶴蒔絵(左) 長文箱


黒漆高坏柏葉螺鈿文字入り蒔絵 硯箱 国指定重要文化財
鳳凰に桐をあしらった高坏に柏の葉がのり、葉には螺鈿で伊勢物語第87段の一節「きみかためには」が入れてあります。


黒漆蒟醤盆 煙草箱 附属方盆
江戸時代の讃岐漆器の代表的技法蒟醤(きんま)で作られた盆で、文綺堂2代藤川蘭斎の作です。


檜扇 葵紋付き 国指定重要文化財
7代慶寿が登城の折携帯したものと伝わります。


印籠 国指定重要文化財
蒔絵、堆朱、螺鈿などの細工が施され、紐の先端に根付が付いた腰に下げる小箱で、主に印判や常備薬を入れていたものが、江戸時代には装身具になりました。大相撲ではいまも立行司と三役格行司だけが印籠を付けて土俵に上がっています。

明治維新、関東大震災、太平洋戦争で大名家などのお宝が散逸してしまったなかで、この一橋家の他にも、水戸徳川家(徳川ミュージアム)、尾張徳川家(徳川美術館)、井伊家(彦根城博物館)、前田家(成巽閣)など法人化して所有美術品を管理公開しているところもありますが経営は大変なようです。ある法人の代表の方が、どうしても手放すときには出所が後世に伝わるように高額なものから換金していると放送で話していました。
今後もどういう方策にせよ国のお宝が散逸せずに存続できるように、行政も何らかの優遇措置を設定して見守っていただきたいと思います。

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