住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
幅広く仏教について考える

私のフリーランサー時代

2005年06月01日 17時15分52秒 | インド思い出ばなし、ネパール巡礼、恩師追悼文他
まだ私がフリーランサーだった頃の話をしてみたい。実際は、そんなに格好の良いものではない。下積み時代と言った方が良いかもしれない。15年ばかり前のこと、高野山から降りて世話になった放生寺を辞してから、一人で団地に住まい、四国を歩きに行ったり、インドへ行ったり。また東京にいるときには銀座の数寄屋橋と浅草の浅草寺仲店裏で托鉢をして暮らしていた。

その前くらいからお世話になっていた人にN氏が居る。何の後ろ盾もない私を誘ってくれて、時々食事をご馳走になり、色々と話す仲になった。私より7つばかり先輩だ。会うとよく「この年になって友達が出来るというのは珍しいんだよ」と言っていた。私も今思うとホントにその通りだなと実感する。N氏は学生時代、好き勝手に音楽に打ち込み、プロを目指していた。今一歩の所で、慎重になって、事業を興された。

その事業を今でも続けているが、バブル景気の時期どうだったのかは知らないが、はじけても未だに時代の波に乗って景気がよく、一人余裕を持って人生について考える、ゆとりのある人だ。私がインドを訪ねている時期にカルカッタにやってきて、一緒にカルカッタ随一のオベロイグランドホテルに一週間泊まった。

ヨーロッパから来ているとおぼしき初老のご夫婦たちの隣で、二人してプールで泳ぎ、プールサイドでラム酒を片手に語り合った。何を話したのか、話しながら二人とも涙を流していたことだけは憶えている。日本とインドの違いだったか、生き方の話だったか。とにかく一週間話詰めだった。二人でマザーテレサの教会にも寄った。がそれよりも、彼はその地区にある売春宿の女性の人生に涙していた。

国内でも、誘っくれてよくご家族と共にボートを湖畔に浮かべ遊んだこともあった。そうして私がインドにまとまった期間滞在することになった頃、ご家族に不幸があった。そんな中にもかかわらず、私は2ヶ月後にはインドへ飛び立たねばならなかった。インド僧になり、サールナートに滞在した。その数ヶ月後、N氏は仲間たちと私の母を伴ってインドにやってきてくれた。

カルカッタで出迎え、ベンガル仏教会を訪問し、寝台列車でサールナートへ。私の滞在していた法輪精舎に来て、無料中学校のために寄付を募るビデオを制作してくれた。瞬く間の一週間だったが、同じ事の繰り返しで、またヒンディ語に慣れず行き詰まっていた当時の私の心がその一週間でとても軽くなった。

それから一年後、私が日本に戻っていた時期に再婚され、私がインドの袈裟姿のままで、インドのお経をあげて儀式を執り行わせてもらった。結婚式はなかなかする機会に巡り会えるものではない。私にとっても、それはとても貴重な体験となった。

その頃からせっかく日本にいる間何か書いたらと勧めてくれて、ダンマサーラという名のB5版16ページの布教誌を発刊した。私はその内の半分程度の原稿を書くだけで、その他レイアウト、イラスト、編集、他の写真家さん作家さんとのやり取りなど、すべてN氏の好意で作って下さった。

当時は毎月200部印刷し、ページを折ったり閉じたりを私とN氏が行った。全て制作すると一緒に郵便局へ発送に行った。お互いの知り合いが殆どだった。一緒に制作に当たっていた作家さんなどと共に慰労会を催してくれたこともあった。

その後私は、インドの僧侶を辞め、日本の僧侶に復帰して、深川の小庵に住まいした。それでも隔月でダンマサーラ誌を発行し、今住まいする國分寺にやってきてからも続けていた。しかし、とうとう私自身の立場がダンマサーラというタイトルに合わなくなっていたこととインドへの憧憬だけでは原稿は書けないと思い、35号をもって廃刊となった。この間七年が経過していた。

正に、このダンマサーラ誌のお陰で、今の私があるのだと思っている。書くために勉強し考える習慣がついた。その後、膨大な量の原稿をホームぺージ「インド仏教通信・ナマステ・ブッダ」と題して整理し、6年前にインターネット上に公開した。ものを書くという習慣自体は私の中でもっと以前に芽生えたものではあるが、今のようなスタイルで書き続けられるのは正にダンマサーラ誌あってのことであり、そう思うとすべてN氏のお陰だとも言える。

実は、そのN氏の父上が亡くなられた。明日葬儀の導師として招かれ、午後の便で、東京に飛ぶ。父上も別の事業を興し、自社ビルを東京に建てられた立派な方だが、とても温厚で実直な人柄だった。心を込めて読経したいと思い、N氏との思い出をここに綴らせていただいた。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする