住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
幅広く仏教について考える

日本仏教の歩み11

2006年01月25日 09時28分02秒 | 日本仏教史、インド中国仏教史、真言宗の歴史など
(以下に掲載する文章は、仏教雑誌大法輪平成17年12月号よりカルチャー講座にわかりやすい日本仏教史と題して連載するために書いた原稿の下書です。校正推敲前のもので読みにくい点もあるかもしれませんが、ご承知の上お読み下さい)

江戸時代の仏教

関ヶ原の戦いを経て江戸幕府が成立し、幕藩体制が確立。その後二百数十年に及ぶ近世封建制度の中で仏教がどのように継承されていったのかを見てまいりましょう。

江戸幕府と寺院統制

家康は江戸に幕府を開き、徳川氏の永久政権を志向して、儒教によって世道人心を導くことを選択します。しかし、林羅山ら京都五山出身の儒者に加え、南禅寺金地院崇伝や天台宗の学僧天海ら僧侶も側近として寺院統制や外交文書の起草に参画させています。

幕府は宗派ごとに江戸に触頭寺院を置き幕府の命令を周知させ、本山の地位を保証した上で末寺を組織統制させます。さらに崇伝(一五六九ー一六三三)起草による寺院法度によって各宗寺院の守るべき規則を、一六〇一年に高野山に下した法度を皮切りに各宗寺院に下し、一六六五年には各宗共通の法度が発布されます。

各宗内の職制、座次、住職資格、本寺末寺関係が規定されて、すべての寺院が本山から本寺、中本寺、直末寺、孫末寺へいたる、本山を本とする中央集権的な組織に組み入れられることになりました。

また法談の制限、勧進募財の取締まり、新寺建立や新興宗教の禁止などが規定されて、自由な布教活動や新しい教義の提唱が禁止され、学問の振興のみが奨励されることになります。

キリスト教禁制と寺壇制度

キリスト教布教がスペイン、ポルトガルの植民地獲得の手段であることを知った家康は、一六一三年、崇伝に対し江戸城にて「バテレン追放の文」作成を命じます。

これにより宣教師が追放され、信徒の改宗が命じられると、改宗した者にはその身元を引き受ける檀那寺から寺請けの証文を取らせました。

重税と飢饉に苦しむ農民らが起こした一揆にキリシタンが多く含まれていた島原の乱(一六三七)が起こると、幕府は寺請制度を強化。四代家綱の時代に全国に普及することになります。

一六六四年幕令によって、全国民について必ずどこかの寺院の檀徒になることが義務づけられます。そして、宗旨を人別に記載する「宗旨人別帳」が全国画一的に法制化され、家ごとに各人の年齢宗旨を記載し捺印させて檀那寺の住職がこれを証明。戸籍の原簿として、また租税台帳としても利用され、転住逃散を防止する役割も担っていました。

婚姻、旅行、移住、死亡、奉公の際にも檀徒であることを証明する寺請証文の携行が必要でした。後には一家一宗旨、さらには檀那寺を変更することも禁止されました。
 
東照宮造営

熱心な念仏信者でもあった家康は死に際に幕府の守護神となることを遺言します。一六一六年、駿府で家康が息を引き取ると、家康の政治顧問であった天海(一五三六ー一六四三)が、神道と仏教を融和した山王一実神道方式により、薬師如来を本地とする「東照大権現」の称号を勅許に基づいて授与。天海は、後に日光山輪王寺に東照宮を造営して家康を神として改葬します。

さらに天海は江戸城の鬼門にあたる上野に寛永寺を創建して東の比叡山、すなわち東叡山と山号して関東一円の鎮護とし、法親王の入寺を請い、法親王はその後天台座主として東叡山に住し、天台宗の実権は江戸に移りました。
天海は、家康から家光まで三代の将軍の側近として厚遇されました。

紫衣事件

尊貴を象徴し、元来高徳の僧尼に対し朝廷より賜っていた紫衣は、古来朝廷の収入源の一つでもありました。

しかし一六一三年、幕府はこの紫衣勅許に先立ち幕府への申し入れを要するとした「勅許紫衣等に関する法度」を定めます。また、「任僧正」についても、さしたる学問者でなければ僧正の官を停止すべきと命じています。

そして一六一五年には、「諸宗本山本寺の諸法度」を定めて、僧侶・寺院の地位や名誉に関する朝廷の特権を剥奪し、僧侶の昇進一つも天皇の一存では通らない事になります。

後水尾天皇(在位一六一一ー二九)は幕府に相談なく十数人の僧に紫衣着用の勅許を与えたことが明らかになると幕府はその無効を宣言し、これに抗議した大徳寺の沢庵ら三人の僧を流罪に処し、後水尾天皇は譲位しました。

沢庵は後に許されると三代家光に帰依され、品川に広大な敷地を有する東海寺を建て迎えられています。つづく
                                  
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