活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

印刷とアートの世界-遠藤 享さん②

2011-02-21 09:59:58 | 活版印刷のふるさと紀行
 遠藤さんの映像をまじえたレクチュアーは熱を帯び、塾生はますます惹きこまれて行きました。それもそのはず、制作を進められる上での気迫が珠玉の体験談としてそのまま伝わってくるからです。
 スケッチというかデッサンというか、まず鉛筆で精密な作品構想をディテールまで納得いくまで描きあげ、撮影に取り組み、つぎにコンピュータで写真加工にかかる。遠藤さんがご自分のイメージを表現する上での戦いは、苦しみであり、出会いであり、いつも新鮮な発見を伴なったと振りかえられるのでした。

 それと驚きは作品ジャンルの広さです。よく存じ上げている私たちの感性に訴えかけてくる繊細で感覚的な作品ばかりでなく、「ネオンサイン」のような作品に及んでいるとうかがって驚きました。実は銀座や新宿でいつも見かけていたオリンパスのネオンが遠藤さんの手になったものとは迂闊にも私は知りませんでした。その最初の構想スケッチを見せていただいてまたまた驚きでした。こちらは緻密な数学抜きでは無理なものでした。
 ネオンと隣りあってさらに緻密さを要求されたであろうものに劇場の大緞帳がありました。糸の「織り」と遠藤さんがコンピュータでつくった「原画」のコラボレーション、一体遠藤さんの創作力はどうなっているのだろうと息を飲んでしまうほどでした。

 コラボレーションといえば、遠藤さんの作品に啓示を受けて、ぜひ、私とコラボレーションをさせてほしいマケドニアやブルガリアの音楽家から申し入れがあってそれも快諾されたといいいます。そのマケドニアの作品を視聴させてもらいました。印刷をスタート点にした版画と音楽とが綾なすアートの世界。 遠藤さんの表現対象のひろがりは無限のようです。
 
 レクチュアーが終わって懇親パーティのとき、私は思い切って質問しました。
 「例の無人島に持ってゆく1冊の本ではないですが、もし、遠藤さんがご自分の作品の中から1点だけもっていくとしたら」 答えは「そんなこと考えたこともないし、1点に絞ることなんかできません」。そうです。バカな質問でした。
 「私はまだこれからだと思っております」。遠藤さんは、こうおっしゃいました。
コメント
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