活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

阿辻哲次先生の「印刷字形と手書き字形の話」

2011-02-24 10:44:12 | 活版印刷のふるさと紀行
 阿辻哲次著『戦後日本漢字史』(新潮選書)、年末に求めて積んでおいた本をようやく読み上げました。おもしろかったなどというと叱られそうですが。

 たとえば、常用漢字表の制定についての章の「印刷字形と手書き字形」という項目のところで、はからずも私は小学校のときのN君を思い出してしまいました。
 彼はいつも先生に「君の字は字じゃない、ミミズの絵だ」とからかわれていました。一念発起した彼は新聞・雑誌の「活字体」ソックリの字をマスターしたのです。のちに高校教師になりましたが黒板にも活字体で書いたにちがいありません。なにぶん、彼には「明朝体」の活字体でしか手書き文字が書けないのですから。

 話を阿辻先生の本に戻して、先生は「教科書や辞書に印刷されているのが「正しい字形である」と教え込む学校や塾の先生が多いので、子どももついついテストの答案をその通りに書かねばならないと思い込んでいる。とんでもない間違いだ」と指摘されます。

 漢字には3千年の歴史があり、手書きの時代が長かった。版木から金属活字へと時代は変わっても中国でも日本でも印刷物にある通りに漢字をことなんかなかった。印刷は印刷、手書きは手書き、先生は漢字を読み書きする者はそれを当然のことと識別していたとおっしゃっています。なのに、≪女はツノを出さない≫といって、小・中学校で女という字の二画目の「ノ」と三画目の横線が交わって上に飛び出すとバツという教師すらいるらしいですが常用漢字表にある通り「筆写の楷書ではいろいろな書き方があるもの」だからどちらでもいいのにと歎いておられます。

 N君が印刷字形をマスターしたとき、小学校の先生はほめませんでした。昔の話ではありますが、あの先生は「手書きは手書き」を信奉していらしたのかなと思った次第です。

 
コメント
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