活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

謎だらけキリシタン版

2012-04-26 16:10:11 | 活版印刷のふるさと紀行

 五島列島福江島の井持浦教会のルルドについて原稿を書いていましたらT大学から電話がありました。私が書いた『活版印刷紀行』の中にキリシタン版の『ひですの経』が大浦天主堂にあるとありましたがというのが主旨でした。

 『ひですの経』は1611年(慶長16)に長崎のお金持ちのキリシタン後藤登明宗印が日本語で日本文字で印刷したいわゆる後藤版のひとつとされています。キリシタン版の活字について多年研究されている近畿大学の森上修先生によると『ひですの経』は、長崎は長崎でもサンチャゴ病院で印刷されているという天理大の冨永牧太先生の説をとっておられますが、1591年に加津佐で印刷された『サントスの御作業のうち抜書』を現存する最古のキリシタン版とすれば1611年の『ひですの経』はおそらく最新のキリシタン版といえるかもしれません。 といいいますのは、刊行年代がはっきりしている最後のキリシタン版で、3年後の1614年にキリシタン版を印刷した印刷機はマカオ行の船に載せられて離日したとされています。

 その『ひですの経』が大浦天主堂にあったというのは私の間違いで、2009年に慶応大学の折井善果先生が米国ハーバート大学ホートン大学で所在を確認され、今年の初めに八木書店から翻刻本が出されました。二十六聖人記念館での取材の折、原本所在を確認しなかった私に非があります。

 ところで、高精細のカラー版の八木書店翻刻版をまだ拝見しておりませんが、使用活字や使用印刷機についていろいろ新発見があるのではないでしょうか。日本文字の鋳造には当初から苦労がつきまとったようですし、おそらく活字の一部は木活字で補わなければならなかった思われますし、印刷機もひょっとして日本語・日本文字専用機を使って、キリシタン版初期のローマ字印刷多用のリスボンから舶載した印刷機ではないのかも知れません。

 とにかく、キリシタン版は謎だらけです。たった400年前にこの日本で印刷されているのに、原本は雲散霧消し、携わった人の記録も発見できず、為政者のキリシタン弾圧の激しさをいまさらながらに思い知らされる次第です。

 

 

 

 

 

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