私的図書館

本好き人の365日

『いまだから読みたい本―3.11後の日本』

2012-01-31 21:49:51 | 本と日常

先日行われた日本教職員組合の教育研究全国集会の様子を伝えるニュースで、福島県相馬市から避難している中学生の発言が紹介されていました。

(福島第一原発事故直後)「どっちに避難したらいいのか、すぐに言ってほしかった。国に見放されたかと思った」

…泣きそうになりました。
くやしくて。

今は「地震から生き延びられ、毎日幸せ」と語る彼に謝りたかった、同じ大人の一人として。

音楽家の坂本龍一さんとその友人が作った本、

『いまだから読みたい本―3.11後の日本』(小学館)

を読みました。
震災後だからこそ、「いまだから読むべき本」や文章、言葉が紹介されています。

物理学者で随筆家の寺田寅彦の「津波と人間」についての文章には驚かされます。

昭和8年に東北地方を襲った「昭和三陸地震」とそれに伴う津波。その37年前、明治29年にも同じ地域を「三陸大津波」が襲っていたにも関わらず、その経験が生かされなかったことを綴った文章です。

「…津波に懲りて、はじめは高い所だけに住居を移しても、五年たち、十年たち、十五年二十年とたつ間には、やはりいつともなく低い所を求めて人口は移って行くであろう」
「…災害記念碑を立てて永久的警告を残してはどうかという説もあるであろう。しかし…(中略)道路改修、市区改正等の行われる度にあちらこちらと移されて、おしまいにはどこの山蔭の竹藪の中に埋もれないとも限らない」

災害直後は詳細な調査をし、周到な予防案が考究され、実行される。しかし、次の震災が来る37年後には、当時の役人も学者も大抵故人であり、体験した人々の多くも世間からは隠退しているであろう。法令も変わり、政党内閣に至ってはいわずもがな…

しかしそれが人間なのだ。
「自然」は過去の習慣に忠実である。地震や津波は必ずやってくる…

としたうえで、寅彦先生は世界有数の地震国の小学校では、毎年数時間は地震津波について教えるべきだと提案しています。
これを、昭和8年に書いている。

その他、私の好きなセヴァン・カリス=スズキの伝説のスピーチや、手塚治虫さんの言葉も紹介されています。

チェルノブイリから避難した母親は、避難先で息子がいじめられたことを嘆きます。放射能を出しているからと彼につけられたあだ名は「ホタル」
最初疎開は3日間だと聞かされていたのに、それが一年、二年の話ではなく、何世代にもおよぶとは。

チェルノブイリ被災者は「チェルノブイリ人」という別個の民族なのだ…

冒頭に書いた福島県の中学生の「国に見放されたかと思った」という言葉がなおさら胸に刺さります。

足尾銅山の鉱毒問題で奔走した田中正造の言葉も紹介されていました。

電力会社を始めとする企業経営者、従業員、役人、議員、大臣たちには、守るべきものは何なのか、もう一度人間として考えて欲しい。


 真の文明ハ
 山を荒らさず、
 川を荒らさず、
 村を破らず、
 人を殺さざるべし

        ―田中正造―

 

ちなみにこの本に編纂チームとして参加された方々への印税は、被災地に自然エネルギーを支援する活動に寄付されるそうです。

とても考えさせられる本でした。