原田マハさんの『楽園のカンヴァス』(新潮社)を読みました。
表紙に使われているのは、フランスの画家アンリ・ルソーの作品「夢」です。
どこかのジャングルに置かれた長いす。
その上に横たわり、左手を何かを指し示すかのように伸ばした裸婦。
木々の影に隠れるようにして描かれた笛を携えた人物。
どこかとぼけた表情の肉食獣たち…
パリの税関で働きながら絵を描いていたため、日曜画家などと呼ばれ、カンヴァスや絵の具代にも事欠く生活だったルソー。
妻と幼い子供を早くに亡くし、二番目の妻にも先立たれ、生前は数少ない理解者にしか評価されなかった「税関史」、ルソー。
今や彼の作品は世界中の有名な美術館に飾られ、日本でも大原美術館や、東京国立近代美術館などに所蔵されています。
この物語は、そんなルソーの研究者として、かつて注目された日本人女性を主人公に、画家と作品、その情熱と支援者たちの思い、そしてそれを時をへだてて眺める栄誉にあずかった人々、人間の美に対する渇望と羨望を描いた作品。
絵画を見て思わずもらしてしまう、
「うわぁ、スゲー!」
という思いが描かれています♪
中心となるのは、ある収集家が手に入れたルソーのある作品について、主人公の日本人女性と、ニューヨーク近代美術館の学芸員との真贋を見極める7日間の対決なのですが、その真贋を見極める作業も魅力的ならば、なにより、芸術作品に対した時のそれぞれの人間の”気持ち”が様々で、主人公とライバル学芸員の作品を、そして画家を愛する気持ちが読んでいるこちらの胸に響きます。
美しさとは、人の胸をうつものなんですね!
かつてルソーの作品の真贋について、貴重な7日間を過ごした女性はいま、実家のある岡山に戻り、未婚のまま娘を産んで、母親と三人で暮らしています。
美術館の監視員として働きながら。
うまくいかない娘との関係。
田舎の人間関係。
籠の中の鳥。
飛び立とうとするペガサス。
監視員の仕事は、人を監視することではありません。
美術品を監視し、その環境を保つ。
あくまで、美術品が最優先。
もっとも美術品と対峙し、見つめる時間が長いのは、美術館の監視員かも知れない…
名作に隠された謎を解くミステリーでありながら、美術館やそれに伴う仕事に携わる人々の描写も魅力的で、長年キュレイター(学芸員)として活躍されている原田マハさんらしい渾身の一作。
史実を基にしたフィクションではありますが、沢山の実在する絵画や画家たちの名前も登場して、読んでいるとフィクションとノンフィクションのまざりあった感覚に襲われ、それがいっそうルソーの「幻の名作」にリアル感を与えています♪
そして訪れる、再会の時…
時系列と謎解きが絶妙な順番で配置され、ついつい物語りに入り込んでしまいました!
この辺りもうまいなぁ~
『ダヴィンチ・コード』のようなサスペンス要素はありませんが、謎に迫るにしたがい明らかにされるルソーの思いや、絵に込められた作者の情熱に、読んでいるこっちはもうハラハラドキドキ。
久しぶりにいっきに読んでしまいました!
感化されやすい性格なので、美術館に行ってみたくなってしまった(笑)
クーラーも効いているだろうし、本当に出かけてこようかな…
とてもいい読書ができました☆