永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(527)

2009年10月11日 | Weblog
 09.10/11   527回

三十六帖【柏木(かしわぎ)の巻】 その(9)

 このように親王たちから上達部と大勢がお出でになりました。源氏はお産前の御祈祷から、産養いの御儀まで、類まれなほど賑々しく執り行われましたが、お心の内は、

「心苦しとおぼす事ありて、いたうももてはやし聞こえ給はず、御遊びなどはなかりけり」
――晴れやかに喜べない翳りがおありになりますので、折角のお客人方をも、あまり取り立てておもてなしもなさらず、管弦の催しなどはありませんでした――

 女三宮は、

「さばかりひはづなる御様にて、いとむくつけう、ならはぬ事の恐ろしう思されけるに、御湯なども聞し召さず、身の心憂き事を、かかるにつけても思し入れば、さばれ、このついでにも死なばや、と思す」
――あれほどか細いお身体で、お産がひどく気味悪く、また慣れないこととて恐ろしく思われましたので、薬湯さえもお召し上がりにならず、わが身の辛さを、お産につけても恐ろしく思い込まれて、いっそのこと、このついでに死んでしまいたい、と思われる――

「大臣は、いとよう人目を飾り思せど、まだむつかしげにおはするなどを、とりわきても見奉り給はずなどあれば、老いしらへる人などは『いでや、疎かにもおはしますかな。めづらしうさし出で給へる御有様の、かばかりゆゆしきまでにおはしますを』とうつくしみ聞こゆれば」
――源氏は、実にうまく人前を繕っていらっしゃいますが、まだ生まれたばかりで扱いにくい嬰児を、特にご覧になろうともなさいませんご様子に、年老いた女房などは、「なんとまあ御冷淡なことでしょう。久しぶりにお生まれになった若君がこんなに可愛くていらっしゃるのに」と愛らしさのあまり申し上げますと――

「片耳に聞き給ひて、さのみこそは、思し隔つることもまさらめど、うらめしう、わが身つらくて、尼にもなりなばやの御心つきぬ」
――(女三宮は)聞くともなしにお聞きになって、今後はただこうして源氏のお憎しみが増していくのであろうと、恨めしく情けなく、わが身の辛さに、尼になってしまいたいと、ふっとお心を過ぎったのでした。――

◆うつくしみ聞こゆれば=ご愛撫申しますと

ではまた。