永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(535)

2009年10月19日 | Weblog
09.10/19   535回

三十六帖【柏木(かしわぎ)の巻】 その(17)

 落葉の宮の母御息所は、始めからこの結婚にあまり賛成ではなかったのですが、

「この大臣のゐたちねんごろに聞こえ給ひて、志深かりしにお負け給ひて、院にも如何はせむと思しゆるしけるを、」
――柏木の父大臣が、ご自分から奔走されて熱心に申し込まれ、誠意が篤かったのにほだされて、朱雀院も躊躇されながらお許しなされたのでしたが――

 柏木は、朱雀院が自分のことを、「将来安心で、真面目な夫を得られた」とおっしゃっておられたことを聞かれて、今それを勿体ない気持ちで思い出しているのでした。

 柏木は母上に、

「かくて見棄て奉りぬるなめりと思ふにつけては、さまざまにいとほしけれど、心より外なる命なれば、堪えぬ契りうらましうて、思し歎かれむが心苦しきこと。御志ありて、とぶらひものせさせ給へ」
――このまま落葉の宮を残して死ぬことになりそうだと思いますと、さまざまのことにつけお気の毒です。思うにまかせぬ命ですから、添い遂げられぬ縁であったと、宮がご悲嘆になるでしょうが、そのことが気がかりです。どうか御厚意のあるところをお見せして、お訪ねしてあげてください――

 と、申し上げますと、母上は、

「いで、あなゆゆし。後れ奉りては、いくばく世に経べき身とて、かうまで行く先の事をば宣ふ」
――まあ、何と不吉なことを。あなたに先立たれて、あと何年生きられる私だと思って、それほど将来のことをおっしゃるのです――

 と、ひたすらお泣きになるばかりですので、柏木はもう何も申し上げることができません。柏木の弟君の右大弁に後の事を細々とお頼みになるのでした。

ではまた。