09.10/24 540回
三十六帖【柏木(かしわぎ)の巻】 その(22)
柏木のさらにお苦しみのご様子に、加持僧も、母君、父大臣も駈けつけられて、お屋敷中が立ち騒いでおりますので、夕霧は泣く泣く退出したのでした。
弘徽殿女御(柏木の妹)、雲井の雁(柏木の異母妹・夕霧の北の方)、玉鬘(柏木の異母姉)と、みなが歎き悲しんで、特別な御祈祷をいたしましたが、
「やむ薬ならねば、かひなきわざになむありける。女宮にも、つひにえ対面し聞こえ給はで、泡の消え入るやうにて亡せ給ひぬ」
――恋の病を治す薬はないという古歌にもあるように、何の効き目もございませんでした。落葉の宮にも、ついに御対面かなわず、柏木は泡の消えるようにはかなくお亡くなりになってしまわれました――
落葉の宮には、御心の底から深く思ってくださらなかった柏木でしたが、それなりに万事やさしく、礼儀を失わずお世話下さったことを思い、特別恨めしいとは思っていらっしゃらないようでしたが、ただ、
「かく短かりける御身にて、あやしくなべての世すさまじく思ひ給ひけるなりけり、と思ひ出で給ふに、いみじうて、思し入りたるさまいと心苦し。御息所も、いみじう人わらへに口惜しと、見奉り歎き給ふこと限りなし」
――このように、柏木が短命に生まれついた身で、夫婦仲というものをつまらないものと思っておられたらしいことを、思い出されますにつけても、ひどく悲しくて、沈み込んでいらっしゃるご様子がなんとも痛々しく、母君も落葉の宮の身の上が人聞き悪くて残念だと深く歎いていらっしゃる――
柏木の父大臣も母君も、自分たちこそ先立ちたいものを、と歎くこと限りもありません。
◆いみじう人わらへに口惜し=内親王は独身を通すのが普通なのに、ご降嫁して早くも夫に先立たれたことが、人の口の端にのぼるなど外聞が悪く、残念でならない。
ではまた。
三十六帖【柏木(かしわぎ)の巻】 その(22)
柏木のさらにお苦しみのご様子に、加持僧も、母君、父大臣も駈けつけられて、お屋敷中が立ち騒いでおりますので、夕霧は泣く泣く退出したのでした。
弘徽殿女御(柏木の妹)、雲井の雁(柏木の異母妹・夕霧の北の方)、玉鬘(柏木の異母姉)と、みなが歎き悲しんで、特別な御祈祷をいたしましたが、
「やむ薬ならねば、かひなきわざになむありける。女宮にも、つひにえ対面し聞こえ給はで、泡の消え入るやうにて亡せ給ひぬ」
――恋の病を治す薬はないという古歌にもあるように、何の効き目もございませんでした。落葉の宮にも、ついに御対面かなわず、柏木は泡の消えるようにはかなくお亡くなりになってしまわれました――
落葉の宮には、御心の底から深く思ってくださらなかった柏木でしたが、それなりに万事やさしく、礼儀を失わずお世話下さったことを思い、特別恨めしいとは思っていらっしゃらないようでしたが、ただ、
「かく短かりける御身にて、あやしくなべての世すさまじく思ひ給ひけるなりけり、と思ひ出で給ふに、いみじうて、思し入りたるさまいと心苦し。御息所も、いみじう人わらへに口惜しと、見奉り歎き給ふこと限りなし」
――このように、柏木が短命に生まれついた身で、夫婦仲というものをつまらないものと思っておられたらしいことを、思い出されますにつけても、ひどく悲しくて、沈み込んでいらっしゃるご様子がなんとも痛々しく、母君も落葉の宮の身の上が人聞き悪くて残念だと深く歎いていらっしゃる――
柏木の父大臣も母君も、自分たちこそ先立ちたいものを、と歎くこと限りもありません。
◆いみじう人わらへに口惜し=内親王は独身を通すのが普通なのに、ご降嫁して早くも夫に先立たれたことが、人の口の端にのぼるなど外聞が悪く、残念でならない。
ではまた。