永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(675)

2010年03月14日 | Weblog
2010.3/14   675回

四十帖 【御法(みのり)の巻】 その(18)

「いふかひあり、をかしからむ方のなぐさめには、この宮ばかりこそおはしけれ、と、いささかの物紛るるやうに、思し続くるにも、涙のこぼるるを、袖の暇なく、えかきやり給はず」
――(源氏は)話し甲斐のある、優雅な方面のお相手としては、この秋好中宮がお一人まだ残っておられたのだったと、幾分お心が紛れる感じがなさるにつけても、こぼれる涙をお袖で払うのに忙しく、お返事もろくろくお書きになれません――

 やっと(返歌)をなさいます。

「のぼりにし雲居ながらもかへり見よわれあきはてぬつねならぬ世に」
――中宮の御位にあってもお察しください。わたしは無情なこの世にすっかり飽きてしまいました――

 このお手紙を上包みに包まれた後にも、しばらく茫然として物思いに沈んでおられます。このように気抜けしているのを紛らわすために、女たちのいる住まいの方においでになり、少しの女房を仏間に侍らせて、心静かに勤行をなさいます。

「千年をももろともにと思ししかど、限りある別れぞいと口惜しきわざなりける。今は蓮の露も他事に紛るまじく、後の世をと、ひたみちに思し立つ事たゆみなし。されど人聞きを憚り給ふなむ、あぢきなかりける。」
――紫の上とは千年でも共にありたいとお思いになりましたのに、死出の旅にはお一人でお立ち出でになったことは、本当に残念でなりません。今では極楽往生の願いが他の事に紛れませんように、ひたすら御修行をなさるのでした。けれども人聞き(女故の弱気)を苦になさっていらっしゃるのは、詰まらないことですこと――

 一連の御法要のことなどは、源氏ははっきりとお指図もなさらないので、夕霧がすべて御準備なさって進めていらっしゃる。

「今日やとのみ、わが身も心づかひせられ給ふ折多かるを、はかなくてつもりにけるも、夢の心地のみす。中宮なども、思し忘るる時の間なく、恋ひ聞こえ給ふ」
――(源氏は)今日こそはとご自分でもご出家の決心をなさることが始終ですのに、そのうちにはかなく月日がつもっていきますのを、夢のようにしかお思いになれません。
明石中宮も紫の上をお忘れになる時とてなく、恋い慕ってばかりいらっしゃるのでした――

四十帖 【御法(みのり)の巻】 終わり。

ではまた。