永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(689)

2010年03月28日 | Weblog
2010.3/28   689回

四十一帖 【幻(まぼろし)の巻】 その(14)

 源氏は、明石の御方からのお文をご覧になりながら、

「旧り難う由ある書きざまにも、なまめざましきものに思したりしを、末の世には、かたみに心ばせを見知るどちにて、後やすき方にはうち頼むべく、思ひ交わし給ひながら、
(……)」
――昔と変わらぬ深みのある書き方をご覧になるにつけても、紫の上が、はじめは明石の御方を気に入らぬ者と思っておられたのに、後にはお互いに心を通わせ合う友となって、安心して信頼し合っていたようだが、(明石の御方は、そうかといって、すっかり打ち解けるという風ではなく、節度をもった心づかいをしていたことを、他人はきっと気付かなかったであろう)――

 などと、思い出しておられます。

「せめてさうざうしき時は、かやうにただ大方に、うちほのめき給ふ折々もあり。昔の御有様には、名残なくなりにたるべし」
――こうして源氏は無性に寂しい時には、並み一通りお立ち寄りになることがありますが、昔のように泊まって行かれることは全くなくなってしまったようでした。――

 夏の御方(花散里)から、四月の御更衣(衣替え)の御装束が源氏に献上されて、

(歌)「夏衣たちかへてける今日ばかり古きおもひもすすみやはせぬ」
――夏衣に召し替えられた今日ばかりは、(紫の上の)思い出のお気持も、少しは鎮まりますでしょうか――

(源氏の返歌)「羽衣のうすきにかはる今日よりはうつせみの世ぞいとど悲しき」
――蝉の羽のような薄い衣に着かえる今日からは、はかないこの世が一層悲しい――

 賀茂祭の日(四月中の酉の日)になって、源氏は祭りの賑やかさに、女房達はさぞ毎日興なく思っていることだろうと、里下がりして見物して来るようにと仰せになります。

「中将の君の東面にうたたねしたるを、歩みおはして見給へば、いとささやかにをかしき様して、起き上がりたり。つらつきはなやかに、にほひたる顔もて隠して、すこしふくだみたる髪のかかりなど、をかしげなり」
――あの中将の君が東面でうたた寝をしていますのを、源氏が歩み寄ってご覧になりますと、大そう小柄で可愛らしい様子で起き上がります。顔立ちがはなやかで、寝起きのためにつやつやと赤らんだ頬を隠すようにして、少し乱れた髪のかかりようなど、たいそう美しい――

「一人ばかりは思し放たぬけしきなり」
――(源氏は)この中将の君一人だけは、思い捨てにならないご様子です――

◆さうざうしき時=寂び寂びしい時の、う音便

◆写真:女房の部屋  風俗博物館

ではまた。