永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(676)

2010年03月15日 | Weblog
2010.3/15   676回

四十一帖 【幻(まぼろし)の巻】 その(1)

源氏(六条院)     52歳 正月~12月まで
夕霧(大将の君)    31歳
雲井の雁        33歳
女三宮(入道の宮)   26~27歳
薫(若君)        5歳
明石の御方       43歳
明石中宮(后の宮)   24歳
匂宮(明石中宮腹三の宮) 6歳
蛍兵部卿宮(源氏の腹違い弟宮)
致仕大臣(昔の頭の中将・故葵の上の兄君・故柏木の父君)
頭の中将(柏木亡き後の藤原氏致仕大臣家の長男)
蔵人少将(柏木亡き後の藤原氏致仕大臣家の二男)
中将の君(紫の上に似ている・源氏の愛を受けた女房)
中納言の君(源氏の愛を受けた女房)
 
さて、紫の上が亡くなられました翌年の春になっても源氏は、

「春の光を見給ふにつけても、いとど昏れ惑ひたるやうにのみ、御心ひとつは、かなしさのあらたまるべくもあらぬに、外には例のやうに人々参り給ひなどすれど、御心地なやましきさまにもてなし給ひて、御簾の内にのみおはします」
――春の光をご覧になるにつけても、春を好まれた紫の上が偲ばれて、いっそう涙にお心が昏れ惑うようで、悲しみが薄らぐどころではありませんのに、表御殿には毎年の慣例どおり人々が参賀に来られなどしていますが、源氏はご気分がすぐれないさまを装って、御簾の内にばかり引き籠もっておいでになります――

 蛍兵部卿宮(ほたるひょうぶきょうのみや)が来られた時だけは、じかにお会いになろうと、その伝言をなさいます。

(歌)「わがやどは花もてはやす人もなしなににか春のたづね来つらむ」
――私の家では花を愛でる人もおりません。どうして春が来たのでしょう。(何のおもてなしもできませんのに、どうしてお出でになったのでしょうか――

 この源氏のお歌に涙ぐまれて、宮は返歌をなさいます。

「香をとめて来つるかひなく大方の花のたよりと言ひやなすべき」
――あなたをお慰めに参りましたのに、ただの花見客とお思いですか――

 紅梅のもとに歩み出でられた兵部卿宮のお姿が、まことに花の美しさを愛でられるに相応しく、やさしくお見えになると、源氏はお思いになります。

「花は、ほのかに開けさしつつ、をかしき程のにほひなり。御遊びもなく、例に変わりたること多かり」
――花はちらほら咲きかけのところで、なんともいえない風情です。ただ観梅の宴の管弦もなく、例年の春とは変わったことが多いのでした。

ではまた。