永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(683)

2010年03月22日 | Weblog
2010.3/22   683回

四十一帖 【幻(まぼろし)の巻】 その(8)

 さらに御庭前は、

「山吹などの、心地よげに咲き乱れたるも、うちつけに露けくのみ見なされ給ふ。(……)その遅く疾き花の心をよくわきて、いろいろをつくし植ゑ給ひしかば、時を忘れずにほひ満ちたる」
――山吹などが心ゆくばかり咲きみだれているにつけても、源氏は、すぐに涙ぐんでご覧になるのでした。(その他の花は、一重の桜が散って、八重が咲き、樺桜が咲き初め、藤がおくれて色づいていくようで)紫の上は、その早く、遅く咲く花をよくご存知で、さまざまの種類の花々を沢山植えてお置きになりましたので、今その花が、時を忘れず咲き満ちているのでした――

 匂宮が、

「まろが桜は咲きにけり。いかで久しく散らさじ。木のめぐりに帳を立てて、帷子をあげずば、風もえ吹き寄らじ」
――私の桜が咲いた。どうしたらいつまでも散らさないでおけるかな。木のまわりに几帳を立てて、帷子を上げないでおいたら、風が吹いて来られないでしょう――

 と、いかにも良い考えを思いついたとばかり、にっこりされるお顔が可愛らしいので、源氏もつい微笑んでしまわれる。こうしてこの匂宮だけを心の慰めのお相手にしていらっしゃって、

「君に馴れ聞こえむことも残り少なしや。命といふもの、今しばしかかづらふべくとも、対面はえあらじかし」
――あなたと親しくすることも長くはありませんね。私の命がもうしばらく続くとしても、もうお目にかかれませんでしょうね――

 と、源氏は涙ぐまれますので、匂宮は厭なことを言われるとお思いになって、

「ははの宣ひし事を、まがまがしう宣ふ」
――お祖母さま(紫の上)のおっしゃったことと同じことをおっしゃるなんて。厭なこと――

 と、目をお伏せになって、お着物の袖をいじりまわしながら、涙を見せないように、幼いながら心配りをなさる。

◆まろが桜は咲きにけり=これも二条院と混同か?

◆まろ=この時代、男女、子供も、「私=まろ」と言った。

ではまた。