永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(678)

2010年03月17日 | Weblog
2010.3/17   678回

四十一帖 【幻(まぼろし)の巻】 その(3)

 その当時の事情を知っていて、今もお仕えしている女房達は、当時の紫の上のご様子をぽつりぽつり源氏に申し上げる者もおります。

 源氏はお心の内で、

「入道の宮の渡り始め給へりし程、その折はしも、色にはさらに出し給はざりしかど、事にふれつつ、あぢきなのわざやと、思ひ給へりし気色のあはれなりし中にも、雪降りたりし暁に立ちやすらひて、」
――入道の宮(女三宮)が御降嫁の頃は、その当座こそ紫の上もまったくお顔色にお出しにならなかったが、何かにつけて味気ないと思い沈んでおいでになりましたご様子も痛々しかったものだった。なかでも、あの雪の夜(女三宮降嫁三日目の夜)の明け方に、私が女三宮の許から立ち戻り、妻戸の外で立ち悩んでいた時のことが、まざまざと胸に甦ってくるのでした――

「わが身も冷え入るやうに覚えて、空の気色烈しかりしに、いとなつかしうおいらかなるものから、袖のいたう泣きぬらし給へりけるを、ひき隠し、せめて紛らはし給へりし程の用意などを、夜もすがら、夢にても、または、いかならむ世にか」
――(あの時は)わが身も凍るように覚えて、空も荒れ模様だったのに、紫の上は常に変わらず、やわらかくおっとりとして振る舞っておられたが、さすがに袖は涙でじっとりと濡れてたのを、なんとか引き隠して、普段通りのお心遣いをなさっていらしたことだった、と、夜一夜思い明かして、夢のうちでも、またいつになったら見られようか――

と、思い続けずにはいらっしゃれないのでした。明け方に局(つぼね)に下る女房でしょうか、

「『いみじうも、つもりにける雪かな』といふを聞きつけ給へる、ただその折の心地するに、御かたはらの寂しきも、いふ方なく悲し」
――「まあ、随分と雪が積もったことよ」と話しているのを聞きつけられますと、まるであの朝のような心地がして、傍に紫の上がおられない寂しさに、言いようもなく悲しいのでした――

ではまた。