◎映画『憲兵とバラバラ死美人』(1952)について
一昨日のコラムで、小坂慶助著『のたうつ憲兵』(東京ライフ社、一九五七)に言及した。この本は、小坂慶助が、実際に担当した事件について綴ったものであるが、厳密に言えば、ノンフィクションではなく、どちらかと言えば「小説」である。
事件というのは、一九三二年(昭和一二)、仙台で起きた、歩兵第四連隊の下士官による女性殺害・遺体損壊遺棄事件である。小坂徳助という有能な陸軍憲兵曹長が、事件の捜査にあたるが、そのモデルは、著者の小坂慶助本人である。その他、登場人物の一部が「仮名」になっているという。
この『のたうつ憲兵』という小説(推理小説)は、まれに見る傑作だと思う。一九五七年(昭和三二)三月三〇日の発売直後に、映画化が決まったらしく、同年八月六日には、新東宝映画『憲兵とバラバラ死美人』として公開されている。
昨日、久しぶりに、この映画を鑑賞してみたが(DVD)、改めて、なかなかの作品だと思った。特に、当時の軍隊の雰囲気、当時の地方都市の雰囲気などが、それらしく再現されていたのには感心した。
ただし、タイトルは感心しない。最初から「三流」を吹聴しているようなものだ。また、ストーリーは、原作から、かなり離れている部分があり、その離れた部分に無理が感じられた。
製作は大蔵貢、監督は並木鏡太郎。主な登場人物と、それを演じた俳優は、以下の通り。
小坂徳助(主役、東京から出張してきた憲兵曹長) 中山昭二
高山忠吉(憲兵伍長、小坂の部下) 鮎川 浩
萩山憲兵曹長(小坂と対立する) 細川俊夫 (好演)
刈田憲兵伍長 小高まさる
井部憲兵隊長 倉橋宏明
君塚八太郎軍曹(犯人) 江見渉(のちに改名して江見俊太郎)
伊藤百合子(事件の被害者) 三重明子
恒吉軍曹(当初、犯人に擬せられる) 天知 茂
守谷刑事部長(仙台署) 岬 洋二
馬渡老刑事(仙台署) 久保春二(好演)
石川博士(東北帝大) 児玉一男
加島喜代子 若杉嘉津子
加島しの 江畑絢子
鴨下妙子(君塚の婚約者) 松浦浪路〈ナミウラ・ナミジ〉
清の家の女将 津路清子〈ツジ・キヨコ〉
老婆およし 五月藤江〈サツキ・フジエ〉(好演)