◎戦は陣取り、仕事は段取り(航空機部品の工作)
岡本勝治の『航空発動機主要部品工作と段取』(中央工学会、一九四四年三月)を紹介している。本日は、その「序」を紹介してみたい。
序
戦〈イクサ〉は陣取り、仕事は段取りといふことばがありますが、段取りがつけば仕事は半分以上もはかどつたと考へてもよいと思ひます。
いかに優秀な工作機械をあてがつても、段取りが下手では生産能率の悪いのは勿論、精度の良いものは決して得られないものです。
さて段取りとは広い意味では削りにかゝるまでの総ての準備、手配を云ふものと考へられますが、こゝでは正しい加工順序と道具立てをいふので、一般工作機械の主要部品切削の場合とその段取りには多少の共通点もあるが、航空発動機はその構造上切削に際しては特殊な段取りを必要とするもの多く、この適否が製品の精度を決定するとゝもに、生産能率をも支配することは明瞭なことです。
戦時下敵米国の天文学的数の航空機生産に対抗するためには工作に必要な単能機、専門機を急速に増設する事も必要なことであるが、これ等の新規増設にたのむことなく、現在の設備で生産能率を一大飛躍させるには工程と段取りの研究が大切なことゝ思はれます。
本書は以上の主旨のもとに、工作順序と段取りを主とし、発動機の構造及び材質については説明に必要な程度にとゞめ、多少の経験者は勿論、未経験工、養成工及び転向工員の諸君にも容易に会得〈エトク〉できるやう簡単に解説したものであります。
昭和十八年七月 著 者
既存の設備を用い、未経験工・養成工・転向工員に頼って、いかにして、敵の「天文学的数の航空機生産」に対抗するか。この課題に対し、著者・岡本勝治が提示している対策は、「段取り」である。はなはだ心もとない対策のようだが、「神懸かり」的な言葉よりは、現実味がある。また、著者は、段取りの本質を、「加工順序」と「道具立て」として捉えているが、これは、なかなか気づかない視点である。
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