◎田中金脈問題(1974)と森友学園問題(2017)
森友学園に対する国有地払い下げ問題に対する国会での追及、および、この問題を扱った報道が、日を追うごとに激しくなっている。
これを見て、四十三年前の田中金脈問題(一九七四)を思い出した。
田中角栄が関わる田中ファミリー企業群は、一九六九年から翌年にかけて、信濃川河川敷を四億円余で買収した。その土地が、建設省の工事によって、時価数百億円となった。これが、不当な資産形成であると指摘されたのが、いわゆる「田中金脈問題」である。発端となったのは、一九七四年一〇月九日に発売された月刊誌『文藝春秋』一一月号に載った立花隆〈タチバナ・タカシ〉執筆の記事「田中角栄研究―その金脈と人脈」であった。
この問題が浮上した時に首相だった田中角栄は、同年一一月二六日に退陣表明をおこない、一二月九日、内閣が総辞職した。
この問題と、今回の森友学園問題との共通点・相違点を整理してみよう。
共通点
・ともに、「土地」とその利用が絡んだ問題である。
・ともに、その土地が「ワケあり」である。信濃川河川敷は、ツツガムシの発生する場所だった。森友学園が買収した国有地は、大量のゴミで汚染されていたという。
・ともに、事後、マスコミの報道などによって、初めて問題が浮上した。
・ともに、首相の政治手法に関わる案件である。信濃川河川敷問題は、「土建屋」的国土開発至上主義に関わり、森友学園問題は、「日本会議」的復古主義的イデオロギーに関わっている。
・ともに、首相の進退に関わる問題となった。田中角栄は、疑惑を払拭できず、首相の座を降りた。安倍晋三首相は、自分あるいは妻が、この問題に関係しているなら、「首相も議員も辞める」と表明している(二〇一七年二月一七日)。
相違点
・信濃川河川敷は私有地であった。一方、森友学園が払い下げを受けたのは国有地であった。
・信濃川河川敷の買収に関しては、高級官僚の関与はなかったと思われる。一方、森友学園への国有地払い下げに関しては、少なくとも、財務省近畿財務局の高級官僚が関与している。
・信濃川河川敷の買収に際し、田中角栄の政治力が行使されたことは明らかである。一方、森友学園への国有地払い下げに関しては、安倍晋三首相は、それへの関与を強く否定している。
・田中角栄が関わる田中ファミリー企業群は、信濃川河川敷の買収によって、結果的に、巨額の資産形成が成されたと指摘された。一方、森友学園問題では、安倍首相の関与があったと推定している論者も、この関与によって、安倍首相が「利益」を得た、とまでは指摘していない。
この事件の今後の展開は、予断を許さない。
田中金脈問題が浮上した時、田中角栄首相は、その政治力を高く評価されており、国民的人気も根強いものがあった。また、『文藝春秋』の記事に対する大手メディアの政治記者たちの反応は、「そのくらいのことは、皆知っている」というものだったという。つまり、当時はまだ、問題が問題として採り上げられないような風潮があった。
にもかかわらず、問題は拡大し、ついに田中角栄は退陣に追い込まれている。
安倍晋三首相を含む政府関係者は、この「史実」に学ばなければならない。もし、今の問題を「軽く」考えているとすれば、それは大きな誤りである。
なお、仮に、このあと、安倍晋三首相が財務省近畿財務局などに対して、何らかの「働きかけ」をおこなっていた事実、さらに、それに絡んで、森友学園側から、何らかの「利益」を受けていた事実が判明したとする。そうした場合には、「首相も議員も辞める」では済まなくなるだろう。この場合に、学ぶべき「史実」は、田中金脈問題ではなくして、一九七六年に発覚したロッキード事件である。