◎いそげよ、いそげ、まなびのみちを。
文部省編輯局編『読書入門』の田沼書店版(一八九五)を紹介している。本日は、その六回目で、第廿一課から第三十二課までの内容を紹介する(十五丁表~二十丁裏)。
第廿一課 ツ、ル、カ、メ、
つ、る、か、め、
つ る。
か め。
第廿二課 ウ、ツ、ク、シ、イ、ハ、ナ、
う、つ、く、し、い、は、な、
うつくしい
はな。
第廿三課 ア、レ、テ、ニ、ジ、タ、
あ、れ、て、に、じ、た、
あめ はれて、
にじ たつ。
第廿四課 ソ、ノ、フ、ヘ、チ、リ、
そ、の、ひ、へ、ち、り、
その ひくい へい
の うち に、
あの たかい
いへ あり。
第廿五課 コ、ム、ス、キ、マ、モ、ヲ、
こ、む、す、き、ま、も、を、
この むすめ は、
きれいな まるい
もの を もつ。
それは なに か。
第廿六課 ベ、ヨ、ツ、ズ、ゲ、ビ、ミ、
べ、お、ゆ、ず、げ、び、み、
まなげよ、まなべよ、
たゆまず うまず。
いそげよ、いそげ、
まなびの みち を。
第廿七課 グ、ガ、ヅ、ワ、ラ、ヤ、ド、ト、
ぐ、が、づ、わ、ら、や、ど、と、
めぐれる くるま、
ながるゝ みづ、
われら は
やすめど、
やむ とき
なし。
第廿八課 井、セ、ン、ヱ、ゴ、ロ、サ、
ゐ、せ、ん、ゑ、ご、ろ、さ、
これ は、 うめ と
すゐせん と の ゑ なり。
これら の はな は、
いつ ごろ さく か。
第廿九課 バ、ペ、ケ、ピ、ポ、プ、
ば、ぺ、け、ぷ、ぽ、ぷ、
ばんぺい は、つゝ を
もちて、もん の
まへ に たち、
ひけし は、はつぴ
を きて、ぽんぷ の
そば に たつ。
第三十課 オ、ゼ、ホ、ギ、フ、ネ、パ、
お、ぜ、ほ、ぎ、ふ、ね、ぱ、
おひかぜ に ほ を
あげて、 こぎ だす
ふね あり。
ひと は、ふね に 一ぱい
のり、かぜは、ほ に
十ぶん みちたり。
第三十一課 ザ、ボ、エ、ダ、ゾ、
ざ、ぼ、江、だ、ぞ、
この ざくろ の き には、おほく の
つぼみ と はな と あり。
きみ は、その 江だ の
はな を
かぞへ
うる か。
第三十二課 ヌ、ヂ、デ
ぬ、ぢ、で
この こ は、つね に
いぬ を かはゆがりて、
一ど も いぢめし
こと なし。
いぬ は、また よろこんで、
この こ の いふ こと を きく。
若干、注釈する。第廿七課の「くるま」とは、水車のことである。この課には、ふたりの人物が、大きな水車をながめている挿し絵がある。
第廿九課の「つゝ」は、漢字で書けば、「銃」。この課には、小銃を持った兵卒が、門の前に立っている挿し絵がある。
第三十一課では、「え」が使われず、「江」の草書体に由来する、いわゆる「変体仮名」が使われている。ここでは、その変体仮名を、「江」で示した。ちなみに、今日、用いられている、ひらがなの「え」は、「衣」の草書体に由来する。
ひらがなの「そ」「お」は、それぞれ、「曽」「於」の草書体に由来する。第廿四課に出てくる「そ」の字体、第三十課に出てくる「お」の字体は、今日、私たちが用いている「そ」「お」とは、かなりの違いがあり、変体仮名と呼びうる。ただし、それぞれ、「曽」「於」の草書体に由来することに変わりはない。なお、第廿五課以降に出てくる「も」の字体は、よくみると、横棒が一本しかない。