◎私共は五箇条の御誓文の御精神に復り……(東久邇首相宮)
朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その六回目。
これより先、米英支三国はポツダムにおいて帝国の降伏を要求する共同宣言を発し、諸般の情勢、帝国は一億玉砕の決意を以て死中に活を求むるか、しからざれば終戦かの岐路に立つたのであるが、日本民族の将来と世界人類の平和を顧念せらるゝ大御心により大乗的御聖断が下されたのである。即ちポツダム宣言は、原則として 天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含しをらざることの諒解の下に涙を呑んで之を受諾するに決し、こゝに大東亜戦争の終戦を見るに至つ
たのであり、帝国と連合各国との間の降伏文書の調印は、本月〔一九四五年九月〕二日横浜沖の米国軍艦上において行はれ、同日御詔書を以て連合国に対する一切の戦闘行為を停止し、武器を措くべきことを命ぜられたのである。
私は顧みて無限の感慨を禁じ得ないと共に、戦争四年の間、共同目的のために凡ゆる協力を傾けられた大東亜諸盟邦に対しこの機会を以て深甚なる感謝の意を表するのである。連合国軍は既にわが本土に進駐しをり事態は有史以来のことで、三千年の歴史において最も重大局面と申さねばならぬ。この重大なる国家の運命を担ひ、その嚮ふ〈ムカウ〉べきところを誤らしめず、国体をして弥が上〈イヤガウエ〉にも光輝あらしむることは現代に生を享ける〈ウケル〉われわれ国民の一大責務であり、一に〈イツニ〉懸つて今後に処するわれわれの覚悟、われわれの努力に存する。今日においてなほ現実の前に眼を覆ひ、当面を糊塗して自ら慰めんとする怯懦〈キョウダ〉や、激情に駆られて、事端を滋く〈シゲク〉するが如き軽薄は到底国運の恢弘〈カイコウ〉を期する所以ではない、一言一行尽く 天皇に絶対帰一し奉り、苟くも過たざることこそ臣子の本分であつて、われわれ臣民は大詔の御誡め〈オンイマシメ〉を畏み〈カシコミ〉、堪へ難きを堪へ、忍び難きを忍んで今日の敗戦の事実を甘受し、断乎たる大国民の矜持を以て潔く自ら誓約せるポツダム宣言を誠実に履行し、誓つて信義を世界に示さんとするものである。
今日われわれは不幸敗戦の苦杯を嘗めてをるが、われわれにして誓約せるところを正しく堂々と実行するの信義と誠実を示し、正と信ずるところは必ずこれを貫くと共に非は非として速かにこれを改め理性に悖る〈モトル〉ことなき行動に終始致しまするならばわが国家国民の真価は必ずや世界の信義と理性に訴へ列国との友好関係を恢復し、ここに万邦共栄の永遠の平和を世界に顕現し得べきことを確信するのであつて、今後におけるわが外交の根本基調も正しくここに存するのである、畏くも大詔においては
世界ノ進運ニ後レサラシムコトヲ期スヘシ
と曰はせられた、私共は維新の大業成るにより明治天皇御親ら天地神明に誓はせられた五箇条の御誓文の御精神に復り〈カエリ〉、この度の悲運に毫も屈することなく、自粛自重、徒らに過去に泥まず、将来に思ひ迷ふことなく、一切の蟠り〈ワダカマリ〉を去り、虚心坦懐、列国との友誼を回復し、高き志操を堅持しつゝ、長を採り短を補ひ平和と文化の偉大なる新日本を建設し、進んで世界の進運に寄与するの覚悟を新たにせんことを、誓ひ奉らなければならない。【以下、次回】
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