礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

軍ノ統制、秩序ノ維持ニ努メ時局ノ収拾ニ努力セヨ(昭和天皇)

2019-08-31 05:20:05 | コラムと名言

◎軍ノ統制、秩序ノ維持ニ努メ時局ノ収拾ニ努力セヨ(昭和天皇)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その七回目。

 組閣の大命を拝するに当つて畏くも 天皇陛下に於かせられては、私に対し、
「特ニ憲法ヲ尊重シ詔書ヲ基トシ、軍ノ統制、秩序ノ維持ニ努メ時局ノ収拾ニ努力セヨ」
 との有難き御言葉を賜はつた、時局に対する御軫念〈ゴシンネン〉の程拝察するだに畏き極みであつて、私はこの有難き大御心に副ひ奉ることを唯一の念願とし、これを施政の根本基調として、粉骨砕身の努力を致し、国民諸君の先頭に立ち平和的新日本の建設の礎たらんことを期してをる。国民諸君もまた畏き聖慮の存する所を再思三省し心機一転潑刺清新の意気を以て新なる御代の隆昌に向つて勇往邁進して頂きたいのである。これがためには特に活潑なる言論と公正なる輿論とによつて、同胞の間に潑刺たる建設の機運の湧き上ることが、まづ以て最も必要なりと信ずるのであつて、私は組閣の始に当り建設的なる言論の洞開〈ドウカイ〉を促し、健全なる結社の自由を認めたき旨、意見を表明する所があったのであるが、政府としては、言論の尊重、結社の自由については、最近の機会において言論出版集会結社等臨時取締法を撤廃致したき意向であり、すでにそれ等の取締を緩和したことはさき発表した通りであって、苟くも国民の能動的なる意欲を冷却せしむるが如きことなきやう、今後共十分留意して参る所存である。【以下、次回】

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私共は五箇条の御誓文の御精神に復り……(東久邇首相宮)

2019-08-30 03:01:56 | コラムと名言

◎私共は五箇条の御誓文の御精神に復り……(東久邇首相宮)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その六回目。

 これより先、米英支三国はポツダムにおいて帝国の降伏を要求する共同宣言を発し、諸般の情勢、帝国は一億玉砕の決意を以て死中に活を求むるか、しからざれば終戦かの岐路に立つたのであるが、日本民族の将来と世界人類の平和を顧念せらるゝ大御心により大乗的御聖断が下されたのである。即ちポツダム宣言は、原則として 天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含しをらざることの諒解の下に涙を呑んで之を受諾するに決し、こゝに大東亜戦争の終戦を見るに至つ
たのであり、帝国と連合各国との間の降伏文書の調印は、本月〔一九四五年九月〕二日横浜沖の米国軍艦上において行はれ、同日御詔書を以て連合国に対する一切の戦闘行為を停止し、武器を措くべきことを命ぜられたのである。
 私は顧みて無限の感慨を禁じ得ないと共に、戦争四年の間、共同目的のために凡ゆる協力を傾けられた大東亜諸盟邦に対しこの機会を以て深甚なる感謝の意を表するのである。連合国軍は既にわが本土に進駐しをり事態は有史以来のことで、三千年の歴史において最も重大局面と申さねばならぬ。この重大なる国家の運命を担ひ、その嚮ふ〈ムカウ〉べきところを誤らしめず、国体をして弥が上〈イヤガウエ〉にも光輝あらしむることは現代に生を享ける〈ウケル〉われわれ国民の一大責務であり、一に〈イツニ〉懸つて今後に処するわれわれの覚悟、われわれの努力に存する。今日においてなほ現実の前に眼を覆ひ、当面を糊塗して自ら慰めんとする怯懦〈キョウダ〉や、激情に駆られて、事端を滋く〈シゲク〉するが如き軽薄は到底国運の恢弘〈カイコウ〉を期する所以ではない、一言一行尽く 天皇に絶対帰一し奉り、苟くも過たざることこそ臣子の本分であつて、われわれ臣民は大詔の御誡め〈オンイマシメ〉を畏み〈カシコミ〉、堪へ難きを堪へ、忍び難きを忍んで今日の敗戦の事実を甘受し、断乎たる大国民の矜持を以て潔く自ら誓約せるポツダム宣言を誠実に履行し、誓つて信義を世界に示さんとするものである。
 今日われわれは不幸敗戦の苦杯を嘗めてをるが、われわれにして誓約せるところを正しく堂々と実行するの信義と誠実を示し、正と信ずるところは必ずこれを貫くと共に非は非として速かにこれを改め理性に悖る〈モトル〉ことなき行動に終始致しまするならばわが国家国民の真価は必ずや世界の信義と理性に訴へ列国との友好関係を恢復し、ここに万邦共栄の永遠の平和を世界に顕現し得べきことを確信するのであつて、今後におけるわが外交の根本基調も正しくここに存するのである、畏くも大詔においては
 世界ノ進運ニ後レサラシムコトヲ期スヘシ
 と曰はせられた、私共は維新の大業成るにより明治天皇御親ら天地神明に誓はせられた五箇条の御誓文の御精神に復り〈カエリ〉、この度の悲運に毫も屈することなく、自粛自重、徒らに過去に泥まず、将来に思ひ迷ふことなく、一切の蟠り〈ワダカマリ〉を去り、虚心坦懐、列国との友誼を回復し、高き志操を堅持しつゝ、長を採り短を補ひ平和と文化の偉大なる新日本を建設し、進んで世界の進運に寄与するの覚悟を新たにせんことを、誓ひ奉らなければならない。【以下、次回】

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戦災者は一千万に垂んとするの惨状を呈し……(東久邇首相宮)

2019-08-29 00:04:10 | コラムと名言

◎戦災者は一千万に垂んとするの惨状を呈し……(東久邇首相宮)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その五回目。

 しかしながら長期に亘る数々の決戦において、その都度連合国軍に至大なる損害を与へたりとはいへ、この間皇軍の蒙つた創痍もまた決して尠き数字ではく、海軍力および航空勢力の損耗甚大なるものあり、共に戦争遂行上重大なる影響を与へ、しかも以上の如き国内生産の現状においては、これが補充は意の如くならず、陸上兵力においては大東亜各地に渉り作戦を続け来つた〈キタッタ〉のであるが、その装備は漸く十全を期し難く、終戦時における皇軍の物的戦力は逐次低下するの已むなき状況にあつたのである。これに対し尨大なる資源と、工業力とを有する連合国側の軍需補給力はいよいよ増大し、殊に欧州におけるドイツの屈伏後は戦勝の余勢を駆つて全戦力を帝国の周辺に集中し来り、物的方面における彼我戦力の相対的比率は、急速に均衡を失するに至つた。
 国力の現状は以上の如く、陸海の戦備もまた、かくの如き低下を見るに至りては、徹底的勝利の確信も理論上においては、遺憾ながらその根拠を減少し、戦争の継続は正に容易ならざる段階に到達したのである。一面連合国航空機による我が本土の空襲はいよいよ甚だしく、大都市は申すまでもなく、中小の諸都市は次々に壊滅し、戦災により家屋の焼失せるものは二百二十万に達し、負傷者数十万を以て数へ、戦災者は一千万に垂ん〈ナンナン〉とするの惨状を呈し、しかも八月に入り連合国軍は新に〈アラタニ〉原子爆弾を使用するに至り、その攻撃を受けたる広島、長崎両市の惨状は、眼も当てられぬものがあり、その災禍の及ぶところ延いてはわが民族の滅亡を来し、世界の人類の文明も、ために破壊に陥るを憂へしむるに至つた。加ふるにソ連は突如としてわが国に宣戦し、国際情勢また最悪の事態に到達したのである。【以下、次回】

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特に食糧の面における苦難は益々増加(東久邇首相宮)

2019-08-28 00:55:09 | コラムと名言

◎特に食糧の面における苦難は益々増加(東久邇首相宮)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その四回目。

 鉄鋼の生産は開戦当初に比し約四分の一以下に低下し、鉄鋼に依存する鋼船の新造補給も爾後多くを期待し得ざる状況となり、また所在資材の活用戦力化も小運送力の低下、配炭の不円滑等の事情により減退の一路をたどるに至つた。
 石炭についても出炭実績は益々悪化するに加へ、陸海輸送力の大幅低下により、供給は逐次減少し、これがため中枢地帯の工業生産は全面的に下向き、本年〔一九四五〕中期以降これ等の地帯においては相当部分運転休止を見るが如き由々しき事態の発生すら予想せらるゝに至つた。
 また大陸工業〔塩〕の還送減少に伴ひソーダ工業を基礎とする化学工業生産は加速度的に低下するの已むなきに至りこれがため本年中期以降においては、金属生産は固より、爆薬等の供給にも支障を生ずる惧れ〈オソレ〉なしとせざる危機に瀕した。
 液体燃料においても既に日満支の自給力に依存するの外なき状況に在り、しかも貯油の払底と拡充の困難に伴ひアルコール、松根油等の生産増強に異常なる努力を傾けましたにも拘らず、航空機燃料等の減少は遠からざる将来において、戦争の遂行に重大なる影響を及ぼさざるを得ない状況に立至り、一方航空機を中心とする近代戦備の生産もまた空襲の激化による交通及び生産施設の破壊と、各種材料、燃料等の不足により、従来方式による大量生産の遂行は遠からず至難を予想られるゝに至つた。かくの如くわが国力は急速に消耗し、本年五、六月の交〔かわりめ〕においては、近代戦を続行すべき物的戦力の基盤は極度に弱められ、軍官民相協力して凡ゆる〈アラユル〉対策を講じ国力の恢復に異常なる努力を捧げたにも拘はらず、近き将来において、物的国力の徹底的転換を図ることは漸く至難なるものあるを思はしめ、殊に沖縄戦の終末以来形勢は全く重大化するに至つた。加ふるに長期に亘る戦争の結果、国民生活特に食糧の面における苦難は益々増加すると共にインフレーシヨンは逐次一般に浸潤せんとし、戦力の現況は戦争の前途に対し深甚なる考慮を要するに至つた。この間、わが特別攻撃隊は悲愴極りなき尽忠の精神を発揮して赫々たる偉勲を樹て、硫黄島、フイリピン、沖縄島等における陸海の将兵また一丸となり奮戦力闘、よく進攻の連合国軍に甚大なる出血を強要する等、わが陸海の精鋭は大東亜全戦域に亘り、一死以て皇国防護の大義に生くる伝統の勇武を発揮し、一億国民また来るべき本土決戦に完璧の防衛態勢を以て一挙に上陸連合国軍を撃滅すべく増産に、築城に、軒昂たる意気を示したのである。【以下、次回】

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汽船輸送力は開戦当初の概ね四分の一程度(東久邇首相宮)

2019-08-27 00:59:59 | コラムと名言

◎汽船輸送力は開戦当初の概ね四分の一程度(東久邇首相宮)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その三回目。
 
 しかるに、ガダルカナル島よりの後退以来、戦勢は必ずしも好転せず、殊にマリアナ諸島の喪失以降、連合国軍の進攻は頓に〈トミニ〉その速度を加ふると共にわが本土に対する空襲は次第に激化しその惨害は日を逐つて増大して来た。既に海上輸送力の低下に因て〈ヨッテ〉、相当の影響を受けてをつた軍需生産は、かくの如き戦局の一段の急迫とともに本年の春ごろよりいよいよ至難を加へ、一方、戦争の長期化に伴ふ民力の疲弊また漸く顕著ならんとし、終戦前の状況においては近代戦の長期維持は逐次困難を加へ憂慮すべき状況に立至つたのである。詳細のことは御質疑に応じ御答へすることとしたいと思ふが、こゝにその概要を申述べれば、即ち本年〔一九四五〕五月ごろの状況においては汽船輸送力は船舶喪失量の増大と、数次に亘る船腹の南方抽出等により開戦当初の使用船腹の概ね四分の一程度を保持するにすぎず、しかも液体燃料の不足と、連合国軍の妨害激化等により、運航能率は著しく阻害され、殊に沖縄戦の終末以来、連合国軍航空機の威力の増大に伴ひ大陸との交通すらも至難の状態に立至り、一方機帆船の輸送力も燃料不足と連合国軍の妨害により急激に減少し、新船の建造及び損傷船舶の補修亦意の如く進捗せず、海上輸送力のかくの如き機能の低下は戦力の維持に甚大なる影響を与ふるに至つた。
 鉄道輸送力の方面においても、車両、施設等の疲弊に加へ相次ぐ空襲により、逐次その機能を低下し、動〈ヤヤ〉もすれば一貫性を失ふ傾向すらあり、全体としての輸送力は本年中期以降にいても於きましては昨年度に比し、各般の努力を尽すもなほ二分の一以下に減退するを免れずと予想せらるゝに至りました
 かくの如き輸送力の激減に伴ひ石炭その他工業基礎原料資材の供給は著しく円滑を欠き、南方還送物資の取得も殆ど不可能となり、これに加へて空襲による生産施設の被害の増大と作業能率の低下は各産業に深刻なる影響を与へ、工業生産は全面的に下向の一途を辿り、軍官民の努力にも拘らずこれが速かなる改善は望み難き状況となつた。【以下、次回】

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